反逆の騎士長様



そう言った“ヴェル”に、私はにこりと微笑み返してお辞儀をする。


ラントをちらり、と見ると、彼はまだ警戒しているような眼差しでヴェルを見ていた。


その時、ロッド様がふと何かを思い出したように、ヴェルに尋ねる。



「ヴェル。俺たちはヴェルに道案内を頼もうと思ってここに来たんだが…

さっき、俺たちに向かって“また、わしの森を荒らしに来たのか”と言っていたが、何かあったのか?」



…!



ロッド様の言葉に、私はラントと共にヴェルを見つめた。


すると、ヴェルは険しい顔をして口を開く。



『あぁ、実は…一昨日から“藍色の瞳の髭男”が樹海に立ち入って、森の木々を傷つけておるんじゃ。』







森の木々を傷つける?


しかも、“藍色の瞳の髭男”って、まさか…



ラントが、思いついたように男の名前を口にした。



「まさか…その髭男って、ジャナルなんじゃねーか?」



するとヴェルは、はっ!として答える。



『そうじゃ…!

確かに、一緒に来ていた青年騎士が髭男のことを“ジャナル”と呼んでいた気がするぞ…!』







ジャナル大臣が、この樹海に…?


一体、何の目的で…。



ロッド様が腕を組んで考え込む中、ヴェルは険しい顔をしながら呟いた。



『奴らの目的は分からないんじゃ。調べようにも手がかりを見つける余裕がない。

わしは、“ガルガル”の仲間の木々の傷を治して回るので精一杯なんでな。』



…そうだよね。


ジャナル大臣が意味もなく樹海を訪れている訳がないけど、目的を調べる方法もない。



その時、ラントが首を傾げながらヴェルに尋ねた。



「“ガルガル”?ジイさんの知り合いか?」



ヴェルは、私たちを見ながら言葉を続ける。



『ガルガルはこの樹海に生えている一本の木の名前でな。唯一、命の宿っている木で、わしの友なんじゃ。

ガルガルのことは、お前達を港町へ続く通りへと案内する途中で紹介しよう。』



…!



“命の宿った木”か…。


ノクトラームの樹海には、不思議な生き物がたくさんいるんだな。



ヴェルは、手招きをしながら樹海の奥へと入って行く。



「ヴェルを見失わないように付いて行こう」



ロッド様の言葉に、私とラントは頷いた。



…ヴェルはただでさえ小さいもんね。


もし、こんな薄暗い樹海ではぐれたら、自力で外に出られる自信はない。



私は、すぅ、と小さく呼吸をしてヴェルの後に続いて歩き出したのだった。


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