反逆の騎士長様

騎士長様と黒衣の騎士




『ツリーハウスの前に出るぞ!

皆の者、覚悟は良いかっ!』



ヴェルが、緊迫した声でそう叫ぶ。


ラントが、ぐっ、と眉を寄せ、ロッド様が私の手を強く握った

次の瞬間だった。


急に視界が開けたと思った、その時。

目の前に、視界に入りきらないほどの大木が現れ、その巨大な幹の前に“二つの影”が見えた。


私は、反射的に足を止めて目の前の男性の名前を口にする。



「!ジャナル大臣…!」



ロッド様とラントの顔が、強張った。


巨大な幹の前に立つのは他でもない、ジャナル大臣とクロウの姿。


神秘的で澄んだ空気が、彼らの魔力で汚されている。



「…意外と早かったですね。

姫様。お久しぶりでございます。」






大臣は低い声でそう答え、藍色の瞳でギラリ、と私をとらえた。


クロウは、黙ったままこちらを睨みつけている。



…ジャナル大臣達は、私達をここで待ち伏せていた…?


彼らの追っ手から隠れるためにこの樹海に入ったつもりだったのに、向こうはそれを読んでいたってこと…?



再び対峙した私達と彼らの間に、ピリピリした空気が流れる。


その時、ヴェルの動揺したような大きな声が耳に届いた。



『ガルガル?!一体どうしたんじゃ!』







ばっ、と顔を上げると、鬼よりも厳つい顔をした大木が、枝の腕を振り回しながら苦しそうに暴れていた。


言葉にならない声を上げながら、ざわざわと自身の葉を揺らしている。



あ、あれがガルガル…?!



想像をはるかに超える大きさだ。



ヴェルは、小さな体を跳ねさせながら暴れ狂う大木に向かって声をかけ続ける。



『ガルガル、落ち着くんじゃ!

わしの声が聞こえんのか?!』



と、その時、ガルガルの太い枝が、ヴェルに向かって振り下ろされた。



っ!



「ヴェル、危ないっ!」



私はヴェルに向かって走り、彼をドン、と押す。


と、ほぼ同時のタイミングで力強い腕が私を抱きしめ、体が宙に浮いたような感覚がした。



ズササササッ!!



ロッド様が、私を庇うようにしながら地面に倒れ込む。


ヒュ…ッ!とガルガルの鋭い枝が、私の頬を掠めた。


鍛え抜かれた体の感触を服越しに感じた瞬間ロッド様が荒い呼吸混じりで口を開いた。



「姫さん!捨て身で人助けに走るなっ!

俺の側から離れるなって言っただろう…!」



「ご、ごめんなさい…っ!」



耳元で聞こえた声に、私は心臓を落ち着かせながら答える。



…あ、危ない…、死ぬとこだった…!



頭よりも体が先に動くって、こういうことなんだ。



「セーヌ、よくやった!

でもバカ!ロッド団長に迷惑かけんなッ!」



遠くの方で、ラントが叫んでいるのが聞こえる。


その時、ヴェルがジャナル大臣達に向かって大声で言った。



『お主ら、ガルガルに何をしたんじゃ!』


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