反逆の騎士長様
今、なんて…?!
私とロッド様達が言葉を失う中、私の目に、クロウの首元で光るネックレスが映った。
歪んだ魔法陣が、クロウの薔薇色の瞳と共鳴して光っている。
…まさか…あれが、クロウの命を繋いでいるの…?
その時、私の頭の中に以前のクロウとの会話が蘇る。
“そのネックレスは、騎士団の印のようなものなんですか?
魔法陣が描かれているみたいですけど…”
“いえ。これは俺の私物です。
大臣から付けるように言われていて……
“首輪”のようなものです。”
ラントが斬られた腕を押さえて眉を寄せた時、枝に捕らわれているロッド様がクロウに向かって口を開いた。
「まさか、お前はジャナルに命を握られているせいで、奴の言いなりになっているのか…?」
「………。」
クロウは、何も答えなかった。
ただ、薔薇色の瞳を鈍く輝かせ、ラントに向かって剣を振り上げる。
!
利き手に傷を負い、剣を落としているラントは抵抗のしようがない。
クロウの目は、本気でラントを殺そうとしているように見えた。
「ラント!!」
私の叫び声が辺りに響いた瞬間。
ロッド様が無理やりガルガルの枝から腕を引き抜き、ラントに向かって突き出した。
ゴウッ!!
ロッド様が魔力を一気に放出すると、クロウの体が碧い光で包まれていく。
「…っ!」
クロウは、再び顔を歪めて動きを止めた。
死ぬことはなくても、痛みは感じているようだ。
ラントが、その隙に地面を蹴ってクロウから距離を取る。
「ロッド団長!魔法を使ってはダメです!」
ラントは剣を拾い、素早くそう声を上げた。
私が、はっ!として顔を上げると、ロッド様の呪いの痣は、首元まで広がっている。
「ロッド様!呪いが広がります!!」
彼の呪いを浄化しようにも、枝に捕らわれているせいでロッド様に近づくことは出来ない。
と、その時、ガルガルの動きがぴたり、と止まった。
そして、全ての力を使い果たしたように、枝がゆっくりと縮んでいく。
…!
ガルガルの呪いを全て浄化し切ったんだ…!
ロッド様とヴェルを捕らえていた枝も彼らの体をしゅるり、と離し、元の大きさに戻っていく。
ドサ!と地面に落とされたヴェルは、荒い呼吸をしながらクロウを見た。
『おのれ、わしの樹海を荒らしおって!
さっさとここから立ち去れ!』
ヴェルはクロウに向かって魔力を放出した。
「…く…っ…!」
ロッド様とヴェルの魔力に顔を歪めたクロウは、小さく呼吸をしてその場から消え去る。
やがて、樹海はしぃん、とした静けさに包まれた。
まるで何事も無かったかのように、深い霧が晴れていく。