反逆の騎士長様
「…僕には、信頼していた仲間がいたんだ。その人はとても仕事熱心で、アドバイスも的確だった。
契約を取り付ける技術もあって、とにかく頼れる助手だったんだ。」
青年は微かに目を細めて続ける。
「だけど、それは僕や他の仲間を欺くための演技だった。
有能な助手に嵌められて、結局、僕の大切なものがすべてなくなったんだ。」
…!
まつげを伏せてそう呟いた彼は、私へと視線を向けて言った。
「僕は、信じていた人に裏切られた…、っていうのもあるけど、それ以上に、陰謀に気付かずに奴の手のひらで転がされていた自分に腹が立ったんだ。
僕がもっと早く気付いていれば…仲間も家族も助けられたはずなのに。」
サァ…、と海風が吹いた。
風になびく彼の琥珀色の髪が、キラキラと太陽に照らされている。
私は、少しの沈黙の後彼に向かって口を開いた。
「…実は、私も貴方と同じような境遇なんです。」
「え…?」
小さく目を見開いた青年に私は続ける。
「私はこの国の者じゃないんですが、ある人との契約でこの国の人に嫁ぐことになってここに来たんです。」
「へぇ…!国またぎで結婚なんて珍しいね」
「はい、そうなんです。
でも、私はまだ一度も夫に会ってませんし、相手のご家族にもお会いしてなくて…」
それを聞いて、青年はひどく驚いた様子で口を開いた。
「相手の顔も見ずに結婚なんて、まるでどこかの王族の政略結婚だな。」
うっ。
そうです。
その通りなんです。
私は、彼を見ながら話を続ける。
「でも結局、その結婚は相手の家の使用人が勝手に取り付けた話らしくて、私は人質扱いだったんです。
色々あってお家に帰れないし、今は契約を結んだ相手の方を探している状況です。」
「ひどいな、それ。
タチの悪い“結婚詐欺”じゃないか。」
すると青年は、ふぅ、と息を吐きながら私に言った。
「その点では、僕と君はかなり似ているな。
裏切り者の手から逃れた親友の話では、奴の契約の条件に僕の名が使われて、勝手に僕の婚約が結ばれてしまったらしいんだ。」