反逆の騎士長様
えっ!
私は、目を見開いて青年を見た。
一般の家庭にもそういうことがあるなんて!
…私は身分を隠している身だし、この人にすべてを伝えられないけど…
この人も苦労してるんだな…。
青年は、苦笑しながら私に言った。
「僕は今まで結婚なんて興味なかったんた。どうせ恋をした相手とは結ばれない家に生まれたからね。
…でも、仮契約とはいえ婚約が結ばれた以上は、出来る限り相手を幸せにするつもりだよ。僕の婚約は規模が大きくて、すぐ消せるものでもないし。」
…そっか。
私以外にも、家柄で結婚させられる人がいるんだ。
そういえば…私も昔から親が決めた人と結婚するというのが決まっていたから、特に恋愛に興味がなかった。
…と言うより、恋愛結婚を諦めていた、という方が近いかもしれない。
この人と私は、どこまでも似ているようだ。
私は、なんとなく青年に親近感を覚えて彼に言った。
「私と似た境遇の人に会えるなんて思わなかったわ。
…そういえば、貴方の名前は?」
私の問いに、青年は少し考えた後、口を開いた。
「…“アル”。僕のことは、そう呼んでくれ。
君の名前は?」
彼に尋ね返され、私は咄嗟に頭の中で考える。
…一応、国に追われているわけだし、素性は隠した方がいいんだよね?
名前くらいなら大丈夫かな。
「私の名前は、セーヌです。」
「!」
すると私の答えを聞いた瞬間、青年の顔つきが変わった。
大きく目を見開いて、数回まばたきをする。
そして、戸惑うような仕草をしながら私に尋ねた。
「セーヌ…?
…えっと…失礼だとは思うけど、歳を教えてもらえるかな?」
「?二十歳です。」
「もしかして、出身はドナータルーズ?」
えっ?!
「はい、そうです…!
どうしてそれを……?!」
すると、次の瞬間
青年がお腹を抱えて笑いだした。
?…??
状況が掴めずにまばたきをしていると、ひとしきり笑った青年は、ふっ、と優しげな瞳で私を見つめた。
そして、さらに私に興味を持ったような口調で呟く。
「…まさか、こんな出会い方をするとはね。
ジャナルは悪い仕事しかしないと思っていたけど、君との婚約の件は唯一褒めてやってもいいと思えるな。」
!