反逆の騎士長様
するとその時、ラントが「あぁ!」と何かを思い出したかのように、はっ!とした。
「そういや、半年くらい前に毒リンゴの回収に駆り出された記憶があるな。
この山だったのか。」
私が頭の上に?を浮かべているとラントは手でジェスチャーをしながら私に答える。
「白雪姫って、童話があるだろ?毒リンゴを食べて眠りにつく話。
あれと同じ症状を引き起こす毒リンゴの木がこの山に生えていて、それを食べたこの近くの住民や騎士が通称“白雪病”にかかった、っていう事故の話だ。」
アルはラントの言葉に苦笑しながら続けた。
「もちろん、童話と同じで白雪病の眠りを覚ませられるのは運命の人の口づけのみ。」
ロッド様も、「もし、呪いが解けなければ一生眠ったままだもんな。あれは恐ろしかった。」と小さく呟く。
へぇ…!
ノクトラームには、そんな病気があるんだ。
不謹慎だけど、なんだかロマンチックな病だな。
その時アルが、はっ、と何かに気づいたように顔を上げた。
「噂をすれば、宿屋のおばあさんだ。
宿をとれるか、聞いてくるよ。」
!
アルの視線の先には、白髪のおばあさんの姿があった。
…あの人が、港で偶然出会った宿屋の主人?
アルはおばあさんに駆け寄っていき数分話し込むと、成り行きを見守っていた私たちに向かって合図を送った。
「どうやら、話がついたみたいだな。」
アルを見ながらそう言ったロッド様に、ラントが目を輝かせながら続ける。
「山奥の秘湯に入れるなんて、幸運ですね!
荒れ地に行く前に体を休めるにはちょうど良い。」
私は、二人の言葉を聞きながら胸がわくわくしてきた。
すると、アルと共にこちらに歩いてきたおばあさんが、私たちを優しげな瞳で見つめながら口を開く。
「毒リンゴのせいでお客がいなくなって困っていたところだったんですよ。
事情はお聞きしました。我が宿でよければ、ぜひお越しください。」
わぁ…!
私達は笑みを浮かべておばあさんの言葉に頷いた。
「では、案内しますから私の後について来てくださいね。」
おばあさんはそう続けると、くるりと私達へと背を向けてゆっくりと歩き出した。
おばあさんが私達から視線を移す瞬間、彼女の瞳が鈍い藍色に光ったような気がしたが
…きっと、私の気のせいだ。
こうして私達は、キラキラと光る海を背にして、深い山の中へと導かれて行ったのだった。