反逆の騎士長様
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《ロッドside》
「じゃあ、早速温泉に行きますか!」
昼食を済ませ、ラントが俺の横に並んでそう言った。
…呪いに効く温泉か…。
これで少しはマシになるといいんだが。
「いっそのこと、この呪いを消してくれればいいんだけどな。」
ため息混じりでそう呟くと、ラントが着替えを手にしながら口を開いた。
「確かにそうですね。
呪いが消えたら、セーヌにわざわざ浄化してもらわなくても済みますもんね。」
「…!」
その言葉に、俺は、はっ、とした。
そうか…。
もし、俺の体から呪いが消えたら、姫さんとの契約はなくなるんだ。
自分が微かに動揺していることに驚く。
…俺の呪いが解ければ、姫さんが俺に縛られることはなくなる。
ジャナルの手から彼女を守るのは、アルトラの役目だ。
俺と姫さんの接点は、まるで無くなる。
…それが、“普通”なんだよな。
姫と騎士長なんて、“顔見知り”程度でいいはずなんだ。
…今までが、近すぎただけだ。
俺は頭の中に生まれた邪念を振り切り、ギシギシと鳴る廊下を進む。
するとその時、温泉へと続くのれんの前に宿屋の主人と青年がいることに気がついた。
俺とラントは、ふと足を止める。
「…いいか?失敗は許さないよ。」
「……はい。」
微かに聞こえた会話に、俺はぴくり、と反応する。
おばあさんの口調は今までの温厚なものではなく、まるで別人のようだった。
彼らは、話を終えると仕事に追われているかのようにパタパタと俺達の視界から消えていく。
「…あのばーさん、怖いですね。
なんか、社会の裏側を見ちゃった感じです」
ラントが青年に同情するような顔でそう呟いた。
俺はどこか不穏な空気を感じたが、せっせと旅館の掃除をする青年に特に気になるところはない。
…気のせいか。
俺はそう思い直して、ラントと共にのれんをくぐった。