反逆の騎士長様
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カコン…。
湯けむりに包まれる温泉に、ししおどしの音が響いた。
「ふー…、生き返る…。
呪いにかけられてない俺まで体が楽になる感じがしますよ。」
ラントが、温泉の淵の石にもたれかかりながらそう呟いた。
「あぁ、確かに気持ちいいな。」
俺は、立ち上る湯気を眺めて小さく呼吸をする。
と、その時、ガラリと扉の開く音がして、タオルを巻いたアルトラがやって来るのが見えた。
「ロッド。お湯はどうだ?
呪いが消えてく感じはするか?」
ザブ…、と隣にやって来たアルトラに、俺は胸元の痣に目をやりながら答えた。
「いや…体は楽だがいまいちピンとこない。
ジャナルの呪いが強すぎるみたいだ。」
…姫さんでも浄化しきれなかった呪いを、湯治で消そうなんてやっぱり無謀だったか。
俺の言葉に「そうか…。」と呟いたアルトラは、髪をかきあげながら石に背中を預けた。
ししおどしの音だけが辺りに響く。
頭の中では、先ほどのおばあさんと青年の姿が消えずにいる。
「…ロッド団長?どうしたんです?
何か気になることでも?」
ラントが俺に向かって声をかけた。
俺は、微かに目を細めて口を開く。
「…この宿の主人と青年のことだ。やはり、客足が遠のく状態で二人で商売をするのは長く持たないだろう。
早く毒リンゴを回収しなければ、と改めて思ってな。」
ラントは「あぁ…、そうですね。」としみじみ呟いた。
…一刻も早く王様達を救い出して国の政治を立て直さないと、この宿屋のように生活苦になる民達が増えてしまう。
俺たちが国の運命を背負っていると思うと、こんなところで休んでいていいのかって気になるな。
つい、目を閉じて息を吐くと、隣にいたアルトラがまっすぐ前を見ながらさらり、と言った。
「なんだ、その事を考えていたのか。
僕はてっきり、俺とセーヌさんが同じ部屋だという事を気にしているんだと思ってた」
「っ!」
ばちゃん!
つい、足が滑って体がお湯に沈む。
ラントは「?」と頭に?マークを浮かべ俺とアルトラを見た。
「…馬鹿…。
なぜ俺がそんな事を気にする必要がある。」
つい口から飛び出た暴言に、王子である幼馴染みは、ふっ、と笑って答える。
「城を出てから今までの事をセーヌさんに聞いたんだよ。
ロッドが女性に何かをあげた話なんて初めて聞いたから驚いて。」
「!」