反逆の騎士長様


**



カコン…。



湯けむりに包まれる温泉に、ししおどしの音が響いた。



「ふー…、生き返る…。

呪いにかけられてない俺まで体が楽になる感じがしますよ。」



ラントが、温泉の淵の石にもたれかかりながらそう呟いた。



「あぁ、確かに気持ちいいな。」



俺は、立ち上る湯気を眺めて小さく呼吸をする。


と、その時、ガラリと扉の開く音がして、タオルを巻いたアルトラがやって来るのが見えた。



「ロッド。お湯はどうだ?

呪いが消えてく感じはするか?」



ザブ…、と隣にやって来たアルトラに、俺は胸元の痣に目をやりながら答えた。



「いや…体は楽だがいまいちピンとこない。

ジャナルの呪いが強すぎるみたいだ。」



…姫さんでも浄化しきれなかった呪いを、湯治で消そうなんてやっぱり無謀だったか。


俺の言葉に「そうか…。」と呟いたアルトラは、髪をかきあげながら石に背中を預けた。


ししおどしの音だけが辺りに響く。


頭の中では、先ほどのおばあさんと青年の姿が消えずにいる。



「…ロッド団長?どうしたんです?

何か気になることでも?」



ラントが俺に向かって声をかけた。

俺は、微かに目を細めて口を開く。



「…この宿の主人と青年のことだ。やはり、客足が遠のく状態で二人で商売をするのは長く持たないだろう。

早く毒リンゴを回収しなければ、と改めて思ってな。」



ラントは「あぁ…、そうですね。」としみじみ呟いた。


…一刻も早く王様達を救い出して国の政治を立て直さないと、この宿屋のように生活苦になる民達が増えてしまう。


俺たちが国の運命を背負っていると思うと、こんなところで休んでいていいのかって気になるな。



つい、目を閉じて息を吐くと、隣にいたアルトラがまっすぐ前を見ながらさらり、と言った。



「なんだ、その事を考えていたのか。

僕はてっきり、俺とセーヌさんが同じ部屋だという事を気にしているんだと思ってた」



「っ!」



ばちゃん!



つい、足が滑って体がお湯に沈む。


ラントは「?」と頭に?マークを浮かべ俺とアルトラを見た。



「…馬鹿…。

なぜ俺がそんな事を気にする必要がある。」



つい口から飛び出た暴言に、王子である幼馴染みは、ふっ、と笑って答える。



「城を出てから今までの事をセーヌさんに聞いたんだよ。

ロッドが女性に何かをあげた話なんて初めて聞いたから驚いて。」



「!」


< 74 / 185 >

この作品をシェア

pagetop