反逆の騎士長様
すると次の瞬間、目の前のおばあさんが、カッ!と目を見開いた。
閉じられていた瞼の奥には、鈍い光を宿した藍色の瞳。
魔力に共鳴してのれんがバサバサと音を立てた。
「…!」
はっ、とした瞬間、目の前には黒い髭を蓄えたジャナルが現れる。
驚きで声を失っていると、ジャナルは不敵な笑みを浮かべながら俺たちに言った。
「簡単に罠に掛かってくれてありがとうございます。
こんなに上手くいくなんて思いませんでしたよ。」
!
ジャナルはアルトラの方へ視線を向けて言葉を続ける。
「お久しぶりです、王子。
隙だらけのところは、ご両親と同じようですね。」
「…っ!」
アルトラは、ジャナルの言葉に、ぐっ!と拳を握りしめた。
余裕の笑みを浮かべるジャナルは、俺たちに向かって言い放つ。
「あなた方にはここにいていただきます。
“私達”の計画が終わるまでね。」
!
嫌な予感が頭をよぎった瞬間、ラントが緊迫した表情で口を開いた。
「クロウだ!あいつがセーヌを狙ってる!」
その言葉に俺とアルトラは、はっ!とした。
ジャナルは、ククク…、と笑って俺たちに背中を向けながら言う。
「えぇ。私の魔法陣であなた方を足止めしている間、クロウには姫様に“魔法”をかけるよう命を下しました。
…一生解けない、“魔法”をね。」
…っ!
俺は、ギラリ、とジャナルを睨んで口を開く。
「足止めするつもりなら、魔法陣だけで十分だろ
俺の服を盗んだのはなぜだ…!」
すると、ジャナルは小さく振り返って俺に答えた。
「姫様の警戒を解くために利用させてもらおうと思いましてね。」
…!
どういうことだ…?
ジャナルは、それだけ言い残すとシュン…!とその場から姿を消した。
それと同時に、俺の中に焦りが込み上げる。
…姫さんが危ない…!
とっさに駆け出そうとする俺を、アルトラが制止した。
「待て、ロッド!タオル一枚で飛び出す気か?!武器も防具も無しで戦おうなんて無茶だ!
第一、この魔法陣がある以上、僕達はここから出られない…!」
俺は、ぐっ、と拳を握りしめた。
くそ…!油断した…!
怪しいところはたくさんあったはずなのに…
これが全てジャナルの罠なんだとしたら、呪いに効く温泉の話も嘘だ。
俺たちは、姫さんと引き離されるための策略にはまっただけ…!
姫さん…
お願いだから…無事でいてくれ…!