反逆の騎士長様


その時、ふいに私の頭の中にロッド様の声が響いた。



“…姫さんの唇は、俺が簡単に奪っていいものじゃない”



どくん…!



言葉に表せない感情が込み上げた。



…あれだけ大切にされてたはずなのに

こんな簡単に奪われてしまった。



と、その時、急に喉に熱いものが込み上げた。


意識していないはずなのに、私の頬を涙が伝う。


私の瞳から溢れた雫は、ぽたり、と私の服を濡らした。



「…!」



クロウが、微かに目を見開いた。


私は、必死に涙を拭って部屋を飛び出す。



…クロウは、なぜか私を追いかけては来なかった。



乱れる呼吸を整えながら私は走った。


涙を堪え、喉の痛みを我慢する。



…泣いている場合じゃない。


キスされたからって、なんなの。


そんなの…どうってことない。


気持ちの入ってないキスなんて、事務作業なんだもんね。


ですよね、ロッド様…。



ドォン!



その時、廊下の奥から大きな音が聞こえた。


静かな旅館に響き渡ったその音に、私ははっ!とする。


私は、迷わず音のした方向へと走り出した。



「…!」



廊下の突き当たりの角を曲がった瞬間

私の目に飛び込んできたのは、首元まで呪いの痣が広がった体で立つロッド様の姿だった。


無理やり魔力を使ったのか、旅館の壁に大きな穴が開いている。



…自力で抜け出したってこと…?



「…セーヌさん!」



顔色を変えたアルが、私の元へと走り寄る。



ロッド様の隣に、魔力を使ったせいで息の上がっているラントが見えた。



…!



三人の顔を見た瞬間、安心感が胸に広がる。



…よかった…

みんな、無事だ……



その時、ふっ、と体の力が抜ける。



「っ!」



アルが、倒れ込んだ私の体を受け止めた。


話したいことはたくさんあるのに、上手く頭が働かない。


体の感覚がどんどん消えていくようだ。



ロッド様とラントが私に駆け寄ったのが見えた瞬間

私の意識はプツリ、と途切れた。


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