反逆の騎士長様
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どれくらい時間が経ったのだろう。
ぼんやりした中で、ふわふわ体が浮かんでいるような感覚がする。
まぶたが重くて、開けられない。
真っ暗な世界を見ているようだ。
…私、何をしてたんだっけ…?
と、その時、頬に手の温かい温度感じた。
…え…?
そして、私の唇に柔らかい感触がする。
それはとても優しく、一瞬の出来事。
心と体が現実に引き戻されるような感覚がした。
…今……誰かにキスされた…?
ふっ、と目を開くと、霞む視界の中に見覚えのある白い服が見えた。
…顔は暗くてよく見えないけど…
あれは…アルの服…?
その時、記憶がだんだん蘇ってくる。
…そうだ。
私、クロウに捕まって、毒リンゴのキスで白雪病にかけられたんだ。
“童話と同じで白雪病の眠りを覚ませられるのは運命の人の口づけのみ”
…!
頭の中に、港町でのアルの声がこだました。
…私が今意識を取り戻したということは…
“アル”が私の運命の人だったってこと…?
無意識に私は手を伸ばす。
…きゅっ
目の前の彼の服を掴むと、彼は一瞬ぴくり、とした。
「…アル……?」
私が小さく尋ねると、彼は少しの間の後
無言で、そっ、と私の頭を撫でた。
優しい手つきに、だんだん心が落ち着いてくる。
…あ…ダメだ…
また眠くなってきた………
私は眠気に抗うことが出来ず、優しい手に甘えるように目を閉じた。
しぃん、と部屋が静まり返っている。
何も、聞こえない。
「………無事で良かった。」
夢の中に誘われる寸前、耳に届いた声は
アルの声よりも少し低かったような気がした。
…アル……だよね…?
しかし、安心させるようなその声の主をまぶたを開けて確認する余力が無かった私は、そのまま心地よい眠りの中へと落ちていったのだった。