反逆の騎士長様
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ピチチチ……
「……ん……。」
小鳥のさえずりに目を開けると、宿屋の窓から朝日が差し込んでいるのが見えた。
風に海の香りが混じっているのを感じた時、私は自分が部屋の布団で寝ていることに気がついた。
…あれ?
私…まさか昨日倒れてからずっとここで寝ていたの…?
むくり、と起き上がると、隣にはアルの荷物のみがあり、アルの姿は無かった。
布団を引いた形跡もない。
…?
アル…?
と、その時
トントン、と部屋の襖を叩く音がした。
「セーヌさん、起きてる?」
!
アルの声だ。
「は、はい…!起きてます…!」
反射的に答えると、ゆっくりと部屋の襖が開かれた。
そして、その向こうから琥珀色の髪の毛の青年が現れる。
「おはよう、セーヌさん。
体調は大丈夫?」
アルは、優しく微笑んで私に声をかけた。
「大丈夫です…!ご迷惑をおかけしました」
私の言葉に、部屋に入ってきて畳に腰を下ろしたアルは、ほっ、とした様子で呼吸をした。
そして、私の方を見ながら言葉を続ける。
「よかった…。セーヌさん、昨日僕の目の前で倒れてから、ずっと眠り続けてたんだ。
初めてセーヌさんの意識が戻ったのを見れて安心したよ。」
…!
私、やっぱり白雪病にかかっていたんだ。
私は、アルに向かって尋ねる。
「アルは怪我とかしてない…?
ロッド様やラントも、相当無理をしたみたいだったけど…。」
「あぁ。僕とラントはほぼ無傷だよ。
ロッドも呪いが落ち着いて、今は回復したみたいだ。」
!
よかった……。
私は、ほっ、として体の力が抜けた。
その時、ふと頭の中に靄のかかったような曖昧な記憶があることに気づく。
…私…確か昨日、誰かにキスで白雪病を解いてもらった。
私は、はっ、として口を開く。
「…ねぇ、アル。」
「ん?」
こちらを向いたアルに、私は尋ねる。
「私の白雪病を解いたのは…アルだよね?」
「…!」
アルは、微かに眉を動かした。
そして少しの沈黙の後、小さく微笑む。
アルは、何も言わなかった。
そして、微かにまつ毛を伏せて私から視線を逸らすと、すっ、と立ち上がった。
「…セーヌさん。」
「?はい。」
私が答えると、アルは視線をこちらに向けないまま口を開いた。
「…僕は一つ、セーヌさんに謝らなきゃいけないことがあるんだ。」
“謝らなきゃいけないこと”…?