反逆の騎士長様
おばあさんの言葉に、私は胸が温かくなる。
彼女の言葉に深く頷くと、アルは外套を羽織って一歩踏み出した。
「じゃあ、行こうか。」
…!
…ついに、国外れの荒れ地に向かうんだ…。
私達はアルの合図とともに、山の向こうのノクトラームの国外れに向かって出発した。
ラントが、アルの背中を追いかけて歩き出す。
私がおばあさんに一礼して歩き出そうとすると、ふいにロッド様が私を呼び止めた。
「姫さん。」
!
どきん、と胸が鳴った。
振り返ると、外套に身を包んだロッド様が私に向かって歩き寄ってくる。
目の前で立ち止まったロッド様は、私を見つめながら口を開いた。
「体調は大丈夫か?」
「はい、もう平気です…!」
ぎこちなくそう答えると、二人の間に沈黙が流れる。
するとその時、小さく呼吸をしたロッド様がまつ毛を伏せながら呟いた。
「すまない。
俺は昨日、姫さんとの約束を破った。」
…!
予想していた言葉に、私は慌てて答える。
「ロッド様が謝る必要はないですよ。
浄化の為に必要だったことなんですから。気にしないでください。」
…ロッド様を死なせないと決めたのは私だ。
笑いかける私に、ロッド様は少し躊躇しながら、ぼそり、と呟いた。
「…俺が呪いに打ち勝てたのは、全部、姫さんのお陰だ。
姫さんが本物の俺を信じてくれたから…俺は自力でジャナルの魔法陣を破れた。」
…!
ロッド様の碧い瞳に、淡く色が灯っていた。
今までとどこか違う眼差しで、ロッド様は私を見る。
「私は、もしまたクロウが変装しても絶対に見破れますよ。
ロッド様のようにまっすぐで温かい人はいませんから。」
「…!」
ロッド様は一瞬目を見開いた後、腕を組みながら私に言った。
「俺も、姫さんの偽物には必ず気付ける自信があるな。」
「…“変な姫はあんたしかいない”とかおっしゃるんですか?」
私は、苦笑しながらそう言った。
すると、ロッド様は私から目を逸らしながら答える。
「姫さんを真似できる奴なんて、この世界にいないだろ。
ドレス破って暖炉に飛び込んだり、灰皿持って男に襲いかかるんだもんな。」