反逆の騎士長様
「…す、すみません…!
私は大丈夫ですから!もう行きましょうか」
私は、ロッド様の横をすり抜けて歩き出す。
…だ、ダメだ。
今、何かを言われたら、また泣きそうだ。
私って、こんなに弱かったっけ。
同じ気持ちのないキスでも、ロッド様とした時は、こんな気持ちにはならなかったのに。
その時、ぱしっ!と腕を掴まれた。
クロウに掴まれた感覚が蘇る。
「…っ!」
つい、体に力が入った。
しかし、私の腕を掴んだロッド様は、優しく私を引き寄せる。
振り返ると、真剣な眼差しと目が合った。
…!
宝石のような碧い瞳が、色味を増す。
…サラ…
ロッド様が、反対の手で髪に触れ、優しく私の耳にかける。
どきん…!
一瞬耳に触れた指に、体の熱が上がるのを感じた。
そして、ロッド様はそのまま手で優しく私の唇を覆う。
───ちゅ。
!
手のひらを挟んで落とされた口付け。
瞳を閉じた整った顔つきが視界に広がった。
…一瞬、呼吸が止まった。
離れていく長い指。
私を覆ったロッド様の影と、指から伝わった体温に、緊張が高まる。
「…これで“ノーカウント”だ。昨日のことは全て。
もう、姫さんは何も考えなくていい。」
低く、艶のある声が耳に届いた。
顔を上げると、ロッド様の綺麗な瞳に映る私が見える。
「…いいな?」
「は、は…い。」
声が震えた。
ぎこちなく答えた私に、ロッド様は小さく微笑んで外套を翻す。
数分前とは逆に、ロッド様は私の横をすり抜けた。
遠ざかる背中に、私はその場に立ち尽くす。
…私は、おかしくなってしまったようだ。
今まで、ずっと手を繋いだり抱き合ったりしてきたし…キスだって交わしたはずなのに
“偽物のキス”で、こんなに緊張してしまっている。
…こんなに、心臓がうるさく鳴っている。
私は、ぎゅ…っ、と手のひらを握りしめた。
…ダメなのに。
この気持ちは、抱いてはいけないものなのに。
心が、震えた。
「………セーヌ!置いてくぞ!」
!
ラントの声に、はっ!とした。
…い、今…
私は何を……?
私は、頭の中の邪念を消し去るように、ぶんぶんと頭を振る。
そして、港町の海の匂いの風に押されるようにして、反逆者達の背中を追いかけたのだった。
第3章*完