反逆の騎士長様
「とりあえず、城の中を歩いて裏口に繋がる通路でも探してみるか。」
ロッド様が、そう言って階段の一番上の段を上りきった。
私達の目の前には、蔦の絡まる大きな扉。
……ギィ…
ロッド様がノブに手をかけて、重厚な扉を押し開ける。
低く響いた音に、城を取り囲む木々からカラス達が飛び去った。
バサバサ…、と聞こえる羽の音が、やけに怪しく聞こえる。
「さ、行こうか。
城の中は広いから、迷わないようにしないとね。」
にっこり笑ったアルに、私は素早く頷いた。
…絶対に はぐれないようにしなきゃ。
ロッド様が先頭に立ち、私とラントは少々怯えながら後に続いた。
コツ…、と一歩、城に足を踏み入れる。
最後尾のアルが城の扉を閉めると、一気に辺りの音が消えた。
しぃん、とした暗がりの中に、四人の足音だけが聞こえる。
…コツ、コツ、コツ…
「へぇ…。
案外、城の中は綺麗なんだな。」
辺りを見回しながらそう言ったアルに、ラントが答える。
「…不自然すぎだよな。
三十年以上経っているのに、ホコリが少しあるくらいなんて…。」
確かに、言われてみれば蜘蛛の巣が至る所にあるにしろ、ノクトラームの隠し通路よりよっぽど綺麗だ。
まるで、誰かが今でも掃除をしているみたい……
…いや、変なことを考えるのはやめよう。
無言で足を進めていると、城の階段を上った先に、赤い絨毯がひかれた廊下が現れた。
その壁には、一面に肖像画が飾ってある。
…薄暗いから、少し不気味だな…。
目を合わせないように意識しながら歩いていると、王冠をかぶった男性の肖像画が見えた。
…これがこの城の王様かな…?
隣には赤ちゃんを抱き抱えた綺麗な女性の肖像画が飾られている。
その時、廊下の突き当たりを見たロッド様が小さく目を見開いて言った。
「あれは、“女神像”か?」
ロッド様の声に視線を向けると、そこにはどこか穏やかな顔をした一体の女神像があった。
女神の片目には、綺麗な翡翠色の宝石が埋め込まれている。
「…精巧な作りだね。
片目にしか宝石がないのが残念だけど。」
「どっかの野盗が盗みに入ったんだろ。
一応“神”だし、両目を盗んでバチが当たるのを恐れたとか。」
ラントの言葉に、私は女神像を見つめながら心の中で呟いた。
…バチが当たるなら、片目を盗んだ時点でアウトだと思うけど…。