反逆の騎士長様



…心臓が止まるかと思った。



私は、深呼吸をしながら部屋の中を改めて見回した。


人がいなくなって随分経っているのにも関わらず、やはり綺麗だ。


特に、写真立てが飾られている机はホコリ一つない。


まるで、時を止める魔法でもかけられているようだ。


写真に目を落とすと、やはりネクタイの刺繍は見えない。



…何度見てもどこか見覚えがあるような気がするな…。



その時、机の引き出しが少し開かれていることに気がついた。

興味本位で引き出しを開ける。


すると、その中には丁寧に保管された手紙のようなものがたくさん入っていた。


私は、封筒を一つ手に取って眺める。



「…“リディナ”……?」



筆記体で書かれた差出人の名前を口にする。


女性からの手紙のようだ。



…もしかして、さっきの写真の姫が送った手紙…?


ということは、この部屋は写真の青年が使っていた部屋なのかな。



カサ…、と封の切られた封筒から手紙を取り出す。


手紙を開くと、そこには綺麗な文字で姫の想いが綴られていた。


他愛もない話ばかり書いてある。


今日の天気の話や、城に来た商売人の話。

庭の花が咲いたとか、夜に見た夢の話。


手紙の始まりは全て、“こんにちは”や“こんばんは”などの挨拶から始まり、終わりは“お返事をお待ちしております”だ。


しかし、私はその手紙に並ぶ文字を見ながら他愛もない話の裏に隠れた想いが伝わってくるような気がした。



…これ…

もしかして、全部ラブレターなのかな。



その時、引き出しの奥に一通だけ手紙の束とは別にされた封筒があった。


どきん…、と心臓が鳴る。



…他人のプライバシーを勝手に見ている分、罪悪感があるけど…



私は、躊躇しながらも別にされていた一通の手紙を手に取った。


他の手紙は何度も読み返されたような跡が付いていたが、私の手の中にある手紙は折り目が一つしか付いていない上に、封筒がかたい。



…この手紙だけ、全然読まれてないみたい。


何が書いてあるんだろう。



私は、ゆっくりと封を開けた。


そして、中に入っていた手紙に視線を落とす。



「……!」




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