反逆の騎士長様
つい、びくっ、と彼から距離を取る。
その時、ラントが私の後を追って部屋に入って来た。
ラントも、ソファに横たわるクロウを見て動揺しているようだ。
…一体、何があったの…?
ラントと互角以上の戦いをしたクロウが、こんなにボロボロなんて…
私は、改めてクロウを見た。
すると、彼の首元のネックレスが鈍く光っているのが見える。
歪んだ魔法陣が脈打つ度に、クロウは苦しそうに呼吸をした。
確か…
以前クロウは、あのネックレスは“首輪”のようなものだと言っていた。
ジャナル大臣に命を握られている不死身のクロウが、こんなにも傷付いているなんておかしい。
私は、ある一つの理由が頭に浮かび、躊躇しながらクロウに尋ねた。
「…まさか、その傷はジャナル大臣にやられたの…?」
「…………。」
クロウは私をちらり、と見たが、相変わらず沈黙を決め込んでいる。
すると、ラントがクロウを見つめながら言った。
「…もしかして、港町で命令を守れなかったから、ジャナルに罰せられたのか?
あの時、お前ジャナルに“失敗は許さない”
とか言われてたよな?」
え…?
クロウが、ぴくり、と肩を震わせた。
何も言わなくても分かる。
ラントの言ったことが本当だってこと。
「私を逃したから…痛めつけられたの…?」
クロウは、目を閉じて腕で顔を隠した。
漆黒の制服には、赤黒い血の染みが付いている。
重い沈黙が部屋を包む中、私は覚悟を決めて手を伸ばした。
…サラ…
「っ!」
クロウの額に手で触れると、彼は驚いて目元から腕を離した。
薔薇色の瞳が私を映す。
「…何のつもりだ。」
私は、クロウの威嚇するような瞳をまっすぐ見つめながら答える。
「その傷はジャナル大臣にかけられた呪いのせいなんでしょう…?
じっとしてて。」
「…!」
ラントは、黙って私を見つめている。
私は、クロウに触れる手に集中した。
ポゥ…、とクロウの薔薇色の瞳が淡く光る。
…だんだん、浄化されていっているみたい。
クロウの顔色が良くなってきた。