見えないなら繋いで
「面白かった…!」
「うん、けっこう良かったね」

あまり表情の変わらない真壁くんの口元が少し笑っていて嬉しくなる。

「今日映画来れて良かった」
「そう。また来ればいんじゃない」

さらっと言われた言葉に胸が高鳴った。
それって、また私とデートしてもいいってことだよね。
嬉しくなって思わず顔がにやけてしまう。

「神月さん何変な顔してんの」
「へ、変な顔ってひどいよ」
「一人でにやけてるから」
「にやけてないよっ」
「ふーん、ま、いいけど。それよりお腹すかない」

言われると確かに空いていた。時計を見ると間もなく1時半を指すところだった。

「食べたいものある?」
「うーん、特にないけど」
「それ一番困る回答。ファストフードとかになるけど」
「うん、全然いいよ!」
「…ならいいけど」

すぐ近くのファストフード店に入る。
土曜日ということもあり、店内は多少ざわついていた。

「神月さん何するの」
「私は照り焼きにしようかな」
「飲み物は」
「…野菜ジュース!」
「買ってくるから席とってて」

そう言って真壁くんは長めの列になったレジへ向かった。

真壁くん優しい。
思ってたよりもずっと気遣ってくれる。
こんなの初めてだからくすぐったいけど…嬉しい。

「真壁くん」

取っていた対面の二人席に座っていると二人分の量を乗せた真壁くんが現れた。

「席ありがと」
「こっちこそ並ばせちゃってごめんね。あ、お金払うから」
「いやいい」
「え、でも…」
「高い店でもないし。今払われる方が恥ずかしい」
「そうなんだ。ごめん、じゃなくて、ありがとう。いただきます」
「うん」

男子って難しいけど、お礼を言った真壁くんはやっぱり口元で笑ってて、こそばゆくなった。
きっと顔が赤くなってたから誤魔化すように食べ始めた。

「この後どうしよう」
「行きたいとことかないの」
「うーん、映画で精一杯だったから」
「なにそれ」

ほんとだよ。真壁くんとデートするってだけで緊張してずっとドキドキしてるのに。

真壁くんは、やっぱり慣れてるから全然そんなことないんだろうな。
あ、なんかちょっともやってした。
何でだろう、一緒にデートできるだけでこれ以上ないくらい嬉しいのに。

「スポットワールドとか」
「あ、好き!最近行ってない。バスケしたい」
「神月さんバレー部だったよね」
「え、知ってたの?」
「知ってるでしょ。三年間同じクラスでキャプテンやってたら」
「うわーなんか意外。覚えててくれて嬉しい」
「…大したことじゃないでしょ」

真壁くんはそう言ってふいと横向いてしまった。
なんだろ、まずいこといったかな。

「そろそろ行こうか」
「うん。ごちそうさまでした」
「別にこれくらい」
「ううん、ありがとう」

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