見えないなら繋いで
卒業式にお決まりの曲が頭の中を流れる。
高校生活が終わる。
長かったような、一瞬だったような。
三年間通い詰めた校舎も、いつもは何気なく通りすぎた景色が名残惜しく思える。

「おはよう」
「莉果~っ」
「えー、もう泣いてるの?」

教室に入るとすぐに仲の良い女の子たちが集まってくる。
最終日だから少しでもみんなでお喋りしていたいようだ。
だって、みんなもう今日を最後になかなか会えないから。

ちらりと真壁くんの席を見ると男子が三人ほど集まって話していた。
真壁くんは一匹狼にも見えるけど、けっこう男友達は多い。別のクラスの男子ともけっこう喋ってたりする。

視線、少しも合わないな。

ちくりと胸が痛む。
元々クラスでもほとんど会話しなかったから、仕方ないけれど。

「はい、では体育館へ移動してくださーい」

委員長の掛け声でぞろぞろと廊下へ出る。
扉を通ろうとしたときに真壁くんと目が合った。

「おはよう」
「おはよ」
「今日、最後だね」
「うん」
「寂しくなるね」
「まだ実感湧かないけど」
「そっか…」

なんか、二人のときにはあんなに楽しく会話できたのに、どうしてこんな気まずく感じるんだろう。

「真壁くん、引っ越し…」
「真壁ー!!一緒に行こうぜー」
「悪い。なんだよ叫ぶな」

クラスメイトに呼ばれた真壁くんはそのまま行ってしまった。

なんか、どうしよう。
どうしたらいい?
この間、私どう話してたんだっけ。
真壁くんはどんな顔してたっけ。

不安が胸に渦巻いて、動けなくなる。

「莉果、大丈夫?」

心配そうに覗き込むクラスメイト。
ごめんね、卒業式なのに、他のことで悩むなんて。

「大丈夫。行こっか」

にっこり笑って顔を上げる。
私は高校最後の式典に参加すべく、体育館へと向かった。


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