見えないなら繋いで
卒業式といえばやっぱりこの曲だ。
体育館全体を包み込むBGMに耳を傾ける。
壇上では学年首席の男子が答辞を読んでいた。

なんだか涙が込み上げる。
やっぱり、学校好きだったな。
部活もキャプテンに選ばれたときはどうしようかと思ったけど、悔いがないくらいやりきったし、大切な友達もできた。
春からはみんな別々の大学だけど、きっとまた会えるよね。

真壁くんは。

真壁くんとは会えるのかな。

私、まだ真壁くんの彼女なのかな。

恋ってこんな不安になるものだったんだ。

自分の前のクラスメイトが戻ってくるまで卒業証書の受け取りが進んでいたことに気付かなかった。

式は滞りなく進み、体育館の外に出るとみんなそれぞれに集まって写真を撮ったり別れを惜しんでいた。

一通り友達と写真を撮り終え、真壁くんを探すと近くにはどこにも見当たらない。

「あ、ねえ、山口くん」
「おう、神月」
「真壁くん知らない?」
「ああ真壁ならさっき隣のクラスの女子に呼び出されてたけど」
「え…」
「告白じゃないのー?図書館の方行ったけど」

その言葉に頭が真っ白になる。
告白って。

「そっか…ありがとう」

そう言って山口くんと別れて図書館の方へ向かう。
何だか嫌な動悸がしていた。

図書館の角を曲がろうとした時、話し声が聞こえたような気がして足を止めた。

「あのね、私、真壁のことずっと好きで…最後だからどうしても言いたくて…」

勇気を振り絞った震える声に身体が硬直する。

どうしよう。

立ち聞きしてしまった罪悪感と答えを聞くのが怖くて頭が真っ白になる。

「ありがとう」

真壁くんの少し低めの優しい声が聞こえた瞬間、その場から走って逃げ出していた。





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