【B】眠らない街で愛を囁いて
4.疎まれる力 -千翔-
俺はいつものようにB.C. square TOKYOの一角アッパークラスの中にある自分のオフィスで、
12名の精鋭従業員たちと一緒に、仕事に勤しんでいた。
「悪い、今俺が任されてるところまでは終わった。
この後、クライアントの河芸【かわげ】さまの所によって、
俺は午後からの講義に出てくるよ」
そう言って静かに、自分のデスクから立ち上がってスタッフたちに声をかける。
「了解です。
けど千翔様も相変わらずお忙しいですねー。
ちゃんと寝てるんですか?」
「そうですよー。
千翔様、顔色優れないみたいですよ」
「そんなことないですよ。
俺は大丈夫ですから」
「またまた、でも本当に無理しないでくださいよ。
体調悪くなったら、このビルの4階にあるクリニックお勧めですよ。
イケメンの先生が診てくれますから」
イケメンの先生って、俺男だし。
「ゆかなちゃん、千翔さん男だって。
幾ら、千翔さんが女性的な顔立ちしてるって言っても
イケメンの先生はないでしょ。
あそこの看護師のお姉ちゃんもとっても綺麗ですから。
けどあそこで、お姉ちゃんに浣腸されたときは参りました」
「いやぁー、もう海野【うんの】さん、レディーの前で浣腸なんて言わないでくださいよ」
賑やかに盛り上がってる部下たちに、「心配してくれて有難う。無理はしないから」っと伝えると、
そのまま俺はオフィスのドアを潜っていった。
イケメンの先生って、アイツ、イケメンの類なのか?
思わず、ゆかなちゃんの評価に毒づいてみる。
さっき、ゆかなちゃんにイケメンと言われたクリニックのドクターが、
あの日、浜松で置き去りにされた日の朝、かなめちゃんがおろしてくれたインターチェンジまで迎えに来てくれた2番目の兄貴。
あかつきクリニックの経営者であり、唯一のドクター。暁【あき】兄だ。
クリニックの病院名も、漢字に暁って文字が入ってるだけど[あかつきクリニック]っとものの、
数秒で名付けてしまったいい加減な兄貴だ。