【B】眠らない街で愛を囁いて
「あの、少しいいですか?」
声をかけると田中さんは作業の手を止めて、
俺と彼女の方に視線を向けた。
「彼女、雨に濡れてしまって。
このままだと風邪をひいてしまいます。
タオルとか貸していただけませんか?」
俺の言葉に、その人は少し嬉しそうな表情を一瞬浮かべて、
すぐに彼女の方へと視線を向ける。
「あぁ、そうですね。
風邪をひいたら大変です。
どうぞ、地下の管理人室へ」
その田中さんの言葉に、どうしていいかわからないように戸惑っている彼女を見て、
更に田中さんは追い打ちをかける。
「確か……27階を借りられてる泉原さんでしたね。
彼女が一人だと不安がるでしょう。
君も時間を頂けますか?」
その言葉に、叶夢ちゃんの方に視線を向けると彼女は縋るように俺を見つめた。
「わかりました。
さっ、行こうか、叶夢ちゃん。風邪をひいちゃうよ」
そういって、田中さんの後ろを肩を抱くようにしてエレベーターへと乗り込み地下5階にある管理人室へと向かった。
IDカードをかざして、ドアを開けると「さぁどうぞ」っと彼女と俺を管理人室へと招き入れた。
管理人室はいくつかの部屋に分かれていてその一角にはビルのあちこちに設置された防犯カメラにの映像が、
いくつものモニターに4分割で映し出されていた。
「こんなになってたんですねー」
っと、驚いたような彼女は管理人室をキョロキョロと見つめる。
そのモニタールームを脇をすり抜けて備品倉庫、休憩室、作業部屋、談話室と続いていた。
休憩室の一角には、シャワールームも設置されている。
「あぁ、時間があればシャワールームで温まるのはいかがですか?
その間に洋服も何とかしましょう」
そういって田中さんは彼女をシャワールームへと案内すると、
彼女が脱いだ濡れてしまった洋服を洗濯袋に詰め込むと、
俺の前を通り過ぎて行った。
彼女がシャワーを浴びている音だけが、
微かに耳を刺激していく。