【B】眠らない街で愛を囁いて
自分のことだ。
仕方あるまい。
不格好でも別に構わない。
免許取りたての印籠のような、初心者マークを前と後ろのボディーにペタリと貼り付けた車の後部座席に
荷物を詰め込んで今に至る。
車に乗り込んで、スタートボタンでエンジンをかけると
私は「行ってくるね。明後日には一度、車返しに戻ってくるから」っと生まれて初めての長距離運転へとアクセルを踏み出した。
私が運転する道のりは、最寄りの山陽道から乗って、中国道・名神高速・新名神高速・東名阪道・伊勢湾岸道・
新東名高速、そして首都高へと果てしない道のりを予定している。
途中、何度か休憩を挟みながらカーナビと睨めっこしながら、好きな音楽を聴きながら車を走らせる。
大型トラックに四方を囲まれると、思わず圧迫感が強すぎて竦みそうになるし、
無理な追い越しや割り込みの運転に、ひぃぃーって恐怖を感じながら私はひたすら東京に向かって車を走らせ続けた。
ゴールまでは運転し続けて七時間くらいの道程。
9時に出発した私は予定では16時に到着している予定なのに、
19時になろうとしてる今も新東名高速の静岡を抜けられないでいた。
その理由は名神高速での玉突き事故渋滞。
しかも事故を起こして、処理が始まったばかりだったらしく殆ど動くことが出来ないまま
時間だけが経過し続けた。
そして夕方の高速ラッシュにはまり、トロトロ運転に疲労度もマックス。
それに拍車をかけるように、高速道路の単調な道が睡魔を誘ってくれる。
肩をゴリゴリとまわしながら、ハンドルをかっちり握りすぎてパンパンに貼った腕を
揉みながら観念したように浜松のサービスエリアへと車をとめた。
トイレ休憩をして、ご飯を食べると何度も携帯に着信が入ってたことに気が付く。
発信元は、お母さん。
慌てて折り返して電話を掛ける。
「あぁ、叶夢。
良かった、ようやく電話が繋がったわ。
19時なったら流石に、東京に着いたかい?」
「まだだよ。
今は浜松のサービスエリア。
まだ先は長いし眠くて、仮眠とるか、このまま眠気覚めのドリンク飲んで乗り切るか悩んでた」
「叶夢、東京は逃げないでしょ。
でもまだ静岡なんて時間かかってるわね」
「名神で玉突き事故だったの。
その後も、自然渋滞にはまって動かなくて、こんな時間」
「眠い時に運転しちゃだめよ。
叶夢、ちゃんと仮眠しなさい。
事故は貴方だけの問題じゃないのよ。
その一瞬の判断ミスで、取り返しのつかないことにもなるんだから。
ちゃんと仮眠して、眠気を飛ばしてからまた運転するのよ」
お母さんはそう言って電話を切った。
仮眠かぁー。
そうはいっても、後部座席は全部フラットにして荷物詰め込んできたから
運転席と助手席しか空いてないんだけどなー。