【B】眠らない街で愛を囁いて



「千翔、とりあえず彼女にこの薬を渡しなさい。
 後はこっちはお前の薬だ」



そういってクリニックの名前が入った紙袋に薬を入れると俺の鞄へといれる。



「さぁ、彼女を連れてホテルへ行け。
 俺はもう少し、怪獣が暴れた後を片づけていくよ。

 明日の診察が、これじゃまともに出来ん」


そんな愚痴をこぼしながら、兄貴は俺が散らかしたものを片づけ始めた。



処置室のベッドで眠る彼女を緊張しながら抱え上げると、
俺は暁兄のクリニックを後にして四階のエレベーターを呼び止めると、
彼女を抱えたまま中に入り、俺自身の持つIDカードをかざして、本来10階までしか上がらないエレベーターを
ホテルのフロントがある42階まであがれるようにプログラムを操作する。


その途端、エレベーターは少し表向き【メンテナンス表示】のランプがつく、シークレットモードへと変わる。


彼女を抱いたままエレベーターのドアが開くまで壁にもたれる。


まだ赤みがさした頬に、息遣いがあらい。



「お待ちしていました」


俺の姿を見ると、フロントにいたスタッフが駆け寄ってくる。



「千暁様より連絡を頂いています。
 どうぞ、お部屋へご案内します」


スタッフに連れられて俺は暁兄が支度した部屋へと入り、
シングルベッドが2つ並ぶ、その片側に彼女の体をゆっくりと横たえた。




「冷蔵庫にお飲み物や、熱取りシートなどご用意しています。
 何かお困りのことがありましたら、フロントまでご連絡ください」



何時ものように丁寧に俺に声をかけると、
案内したスタッフは静かにお辞儀をして部屋を出て行った。


彼女の傍、部屋のテーブルにノーパソを開いて今日遅れている仕事をこなしていく。


時折、寝返りを彼女が打つたびに、
ドキドキする俺自身を感じながら『冷静になれ』と何度も念じ続ける。


彼女は病人だ。



そうだ起きているからそんな妄想にかられるんだ。



彼女に背を向けてベッドに潜り込んで寝ろ。
そうだ……寝ろ。




そう言い聞かせて、パソコンのデータを保存して電源を落とすと、
シュミレーションしたように隣のベッドに潜り込んで、
ベッドマッドに静かに体を預けた。




いつの間にか……眠ってしまっていた俺は翌朝、
俺のベッドに入り込んでいる柔らかいものに驚く。



「かっ、叶夢……ちゃん」


あっ、声が上ずった……。



「もうぅー、とらちゃんちゃんと此処に居て」


そんな寝言をいいながら彼女は俺にギュッとしがみついてきて、
柔らかな彼女の胸が俺を刺激する。






……どんな拷問だよ……。




その後は彼女が目覚めるまである意味修行の時間で……、
目覚めた彼女が自分のベッドへと飛び戻って掛布団を被ってしばらく出てこなかったのは言うまでもない。



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