【B】眠らない街で愛を囁いて




そんな会話を繰り広げて真実が明らかになったことで、
泉原さんがテレビの電源をつけた。


朝のワイドショーが流れている中、
緊急ニュースとして地震速報が流れている。



それは北海道で少し大きな地震が発生したという現実だった。





……北海道……。




切り替わった地震の瞬間を伝える映像を睨むように見つめながら、
私は自分の体をぎゅっと抱きしめる。





「叶夢ちゃん?
 どうかした?

 地震のニュース、見るの辛いならチャンネルかえるけど」


そういって、私の顔を覗き込んでくれる。




「だっ、大丈夫です。
 すぐに落ち着きますから」



そう切り返しながら、私の意志とは関係なく痙攣を続ける体に戸惑い続ける。
このままが痙攣が止まらなくて、死んでしまうのじゃないかと言う恐怖が包み込む。



「叶夢ちゃん、ちょっと待って。
 今、兄貴を呼ぶから」


そういって泉原さんは、スマホを取り出して電話を掛ける。

どれくらい時間がたったのだろうか?

自分では長い時間が過ぎたように感じた後、
誰かの声が聞こえた気がした。



次に気が付いた時は、見知らぬ天井で、
私の口元には人工呼吸器のようなものがつけられていた。




「叶夢ちゃん、大丈夫?

 あの後、ホテルの部屋で痙攣から意識消失してしまって、
 兄貴の判断で大学病院に搬送されたんだ。

痙攣を抑えるための薬を使って、呼吸状態が低下したために、
 今は人工呼吸器を取り付けてる状態。

 痙攣の薬の効果が薄らいだら自発呼吸も戻るから、
 人工呼吸器も外せるみたいだよ。

 今、兄貴呼ぶから」



そういって、私の枕元のボタンを押すとすぐに「名桐さん、どうしましたか?」っと
看護師さんの声が聞こえる。


「叶夢ちゃん目覚めました。
 千暁兄呼んでもらっていいですか?」

「わかりました」


その声を最後に通信は途絶えて、暫くすると白衣をきた背の高い男の人が近づいてくる。



「千翔、少し廊下に出ていなさい」



そういって泉原さんを部屋から出るように促すとベッドに横たわった私に何かを確認するように触れて、
その後、「呼吸器を外しましょう」っと一緒に来ていた看護師さんに何かを合図して、
すぐにそれを外してくれた。


「少しイガイガするかも知れませんが、
 それは暫くすると気にならなくなりますから」


そういって私に伝えると、持ってきた点滴を入れ替える様に私の腕に固定されているところへと接続する。


「千翔を呼んでこよう」


そういってドアを開けると、心配そうな泉原さんはあわてて私のベッドサイドへと駆け寄ってきた。


看護師さんが病室から消えて、三人になった部屋。
千暁兄と泉原さんがよんだその人が静かに口を開いた。



「叶夢さんは、以前からこうして痙攣発作が起きることがあったのかな?」

「いえ。
 今回みたいに酷いのは初めてです。

 いつもは、痙攣っていっても軽く体が震えてすぐにおさまるんです」

「今回の痙攣が起きたきっかけは?」

「きっかけかどうかはわかんないけど、テレビで、北海道の地震の中継をしてたんだ。
 そしたら、叶夢ちゃんの様子がおかしくなって」

「叶夢ちゃんは過去に大きな地震で被災した経験があるのかな?」


その問いかけにも、私は黙って首を横にふった。



そんな記憶、何処にも残ってない。

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