【B】眠らない街で愛を囁いて
そんなことを思いながら、エンジンを切った車内で私は
コートを被りながら目をつむった。
次に目を覚ました時は周囲は真っ暗。
慌てて携帯を覗き込むと日付が変わって2時を指そうとしてた。
げっ、7時間も寝すぎだー。
仮眠って言っても、2時間くらいで出発したかったのに……。
そんなことを思いながら、運転席から一度降りて、4月が近づこうとしてるとはいえ、まだ寒い外の世界へと触れる。
ガタガタに痛い体をほぐしながら、再びトイレを目指して歩き始める。
お手洗いに行って、洗面所で顔をわしゃわしゃと洗うと頬をパシンと叩いて気合を入れて、
私は自販機でホットコーヒーを購入して、車に戻ろうとしたとき不思議な青年を見かけた。
その人は誰も居ない場所に向かってひたすら話しかけているみたいだった。
無視しても良かったんだけど、それが出来ないのが私のサガ。
困っている人には手を差し伸べなさい。
それがお寺の家に生まれた私の信条。
「あのぉー、どうかしましたか?」
声をかけた途端、その人は何かから解放されたみたいに
キョロキョロと視線を動かして状況を確認する。
「あっ、あぁーすいません。
俺、またやっちゃったんですね」
その人は、独り言のように呟いた。
「ご親切に有難うございます。
俺、バスに戻らないといけないので」
そう言ってその人は再び、駐車場の周辺をキョロキョロする。
「あの?どうかしたんですか?」
その人は、その場所から
「おかしいなぁー、あそこに止まってたはずなんだけど……」っと言いながら、
バスが並ぶ方へと走っていく。
本当は自分の車に戻っても良かったんだけど、
何故か、気になって車に戻る気にはならなくて、私もその男の人の後をついて走った。
するとそのバスが止まったエリアの一角で、その人はうなだれる様に座り込んだ。
「あのぉー、大丈夫ですか?」
声をかけても反応のない男の人の肩をトントンと叩いて、もう一度声をかける。
「どうかしましたか?」
「乗ってきた夜行バスが居なくなってしまいました。
まだ俺、戻ってなかったのに……」
思わぬ言葉にキョトンとする。