【B】眠らない街で愛を囁いて
12.眠らない街 -千翔-

叶夢ちゃんはその数日後、大学病院を退院した。

何時、体に異変が起きるかわからない恐怖。

それは何処か俺の狭間の世界に引き込まれる恐怖に似て、
全く違うとは思いながらも、不謹慎にも親近感に近いものを感じてしまった。

病院に入院中で連絡することが出来ない彼女の代わりに、
眠っている合間をぬって、B.C. square TOKYOに戻って彼女の職場へも顔を出した。


彼女の退院の日、俺は大学の講義をサボって仕事の時間をずらした。




暁兄の何台か所有している愛車からマセラティを拝借すると、
車のエンジンをかけて、地下駐車場から発進させた。



B.C. square TOKYOの地下駐車場はちまたではモーターショーかと噂されるほどに、
高級車がずらりと並んでいるらしい。


だけど多分、乗っている当人たちには高級車って言う概念はないだろう。


気に入ったから乗る、乗りたいから乗る。
多分、それだけだ。



なのに時折、地下駐車場から出てくる高級車の写真を撮りたくて
カメラを構える存在までいっていうんだから、驚き以外の何物でもない。


IDカードを差し込んで地下の駐車場ゲートを開くと、
車用のエレベーターへと車体を載せて停車する。



機械音と共に閉塞された空間が上昇しているのを感じる。
ゆっくりとエレベーターが止まると、静かにドアが開いて進めのランプが点灯した。

それを確認してエンジンを始動させドライブに入れてサイドブレーキを解除し静かにアクセルを踏み込んだ。


車はまっすぐに、叶夢ちゃんの待つ大学病院へ。


病院の駐車場へと車を止めてロックすると、
鍵を指先でクルクルとまわしながら病室へと直行する。



「あぁ、千翔君来ましたね。
 千暁に宜しく」


そういって叶夢ちゃんを診察して、俺に話しかけるのは、
今日、クリニックの診療で身動きがとれず、叶夢ちゃんのことを任せた暁兄の親友だった。



「お世話になりました」



社交辞令的にお辞儀をすると数日の入院生活で増えた手荷物を持って、
ゆっくりと病室を後にする。


カードで治療費の支払いも済ませると、
俺は彼女を誘導するように駐車場へと向かった。



< 41 / 90 >

この作品をシェア

pagetop