【B】眠らない街で愛を囁いて




「どうぞ」


兄貴の車体にそっと手を触れると、
ロックが自動的に解除される。



「あっ、有難うございます」



後部座席に彼女の手荷物を入れると、
助手席へと彼女を誘導する。



「お邪魔します」


そう言って助手席のシートにすっぽりおさまると、
落ち着かない素振りの彼女がゆっくりと俺に視線を向けた。



「凄い車ですね。
 こんな車に乗ってたら、あの日の私の車……乗り心地悪かったですよね」


そうやって彼女は出逢った、浜松での一日を思い出す。



「これも兄貴の車だよ。
 兄貴、車集めるの趣味だからね。

 まっ、だからこそ弟としては使いたいときに空いてる車を拝借できるって言う特権があるんだけどね。

 そしたら彼女にも、かっこいい演出が出来るだろう?」


彼女をリラックスさせるように、わざとお道化て見せた。



「さて、これからどうしようか?
 家まで送り届けて帰ろうか?

 それとも体調が大丈夫なら、少し気分転換にドライブしないか?」



そういって提案する俺は、なんてあざといんだろう。


そんな言い方をしたら彼女が断りにくい性格なのだと、
知りながら確信犯で誘う俺自身。



「あっ、はい……お願いします」


思い描いた通り、彼女は少し考えた素振りを見せた後頷く。



それを受けて湘南の方へと向けて車を走らせた。


何処が少しのドライブだよっと自分自身に突っ込みながら高速道路を駆け抜ける。


そんなことを思いながらも車内に響くイギリスのロックアーティストが歌うサウンドが
車内に心地よく響く。


彼女と他愛のない話をして些細なことで笑いながら、
俺たちはドライブを続けた。



そして海岸沿いを車で流して、再び高速道路を通ってあの日彼女が降りたインターチェンジへと向かった。



高かった太陽は、いつの間にか沈んで空にはお月様が姿を見せる。



賑やかなネオンが輝き続ける眠らない街から、
少し離れた場所は、全く別の姿を世界に映し出す。



「後はどうやって行くのかな?
 教えてくれれば、家まで送るよ」

「有難うございます」

「住所教えてもらっていい?
 ナビが連れて行ってくれるだろうから」



わざと提案して、彼女の住所がナビの履歴に残る様に仕向けた。

提案されるままに彼女はナビを戸惑いながら操作して、
「入力終わりました」っと伝えた。

その言葉に検索キーを押すと、彼女の家までここから20分ほどの移動距離であることがわかった。


ナビに誘導されるままに車を走らせながら、
目の前にとまったお店で食事をしたいと申しでる。


そんな俺にやっぱり彼女は「はいっ」っと素直に頷いてくれた。

< 42 / 90 >

この作品をシェア

pagetop