【B】眠らない街で愛を囁いて
いやっ、夜行バスは待ってくれないでしょ。
あれって、路線バスだもん。
だから私も夜行バスで出掛ける時は、
極力トイレだけバビュンと行って速足で座席に戻ってきてた。
「携帯電話やお財布は?」
「残念ながら持っていません。
全部、バスに預けた荷物の中です……。
って言うか、どうするかなぁ」
頭を抱えながら唸ってるその人に、
私は無謀にも「一緒に乗っていきますか?」っと提案をした。
「いいんですか?」
まっすぐに私を見つめて問い直した言葉。
「ただし、私免許取り立てなんです。
高速の運転も、長距離は今日が初めてなんです。
それでも良ければ……ですけど……」
その物言いに、少しびっくりした表情を見せた男の人だったけど、
少し何かを考えて、縋りつくように『お願いします』とお辞儀をした。
車に戻って真っ先に男の人が私に頼んだのは、
携帯を貸してほしいと言うことだった。
求められるままに携帯電話を渡すと、その人は何処かへ電話を掛けた。
そして私に電話をつなげたまま、何処のインターチェンジで降りるのかを問う。
私が向かうインタ-チェンジを伝えると、
その人はその場所を電話相手に伝えて何かを手配しているみたいだった。
浜松インターで妙な男を助手席へのせて、
私は再び東京を目指して真っ暗な高速道路を走り続けた。