【B】眠らない街で愛を囁いて
お弁当を買い物したお客様が重なって、レンジアップした時に別のお客様へと手渡す。
実際の購入とは違うお弁当が手渡されて、後から気が付いたお客さんからクレーム電話が入る。
品出しをさせたら商品と落とし瓶を割り、暫くの間延々と床掃除をする羽目になる。
そしてその日も彼女はやらかした。
料金収納の高額受付ミス。
料金収納の業務を始めて、振込用紙のバーコードを通したその瞬間から、
取り消し作業をするには振込用紙がなければ何もできない。
そして振込用紙には、流れ作業のように会計を済ませる前に検収印をスタンプしていく。
馬上さんは登録作業後のお客様都合の取り消し要請に対して、
レジ上の手続きを何もせずに、検収印のスタンプされた振込用紙をお客様へと返した。
その振込用紙は高額で40000円を超えるものだった。
最近はクリスマスケーキだ恵方巻だで、コンビニの予約ノルマの話題が世間を賑わせて居た時、
それに便乗するように【レジでの誤差の弁償】というものが浮上した。
それは暗黙の了解で、お店の方針にもよるのだけれど、ルールがある店舗はある。
うちのお店の場合はレジでの誤差が1000円未満の時はお店負担。
そして1000円以上の金額の場合は、お店・従業員の相互負担という形になっていた。
お客様からキャンセルと言う口頭での申し出はあったものの、
向こうには検収印済みの振込用紙が返されており支払処理が済んだことになっているものは、
後でお客様に連絡をしたとしても、ややこしいお客様の場合は支払ってないことを受け入れてくれない。
レジの中だけの処理が全てで、泣き寝入り負担をするしかないのが現状だ。
その40000円の料金収納ミスの原因を突き付けられたとき、
店長に向かって彼女は再び私の指導ミスを主張した。
そして……「私、永橋さんがいいです。こんなに指導も出来ないスタッフと組んで、
私のミスにされるなんて耐えられないです」っと、再び泣きながら訴えた。
どれだけ癒されたくても、馬上さんが現れてから千翔さんは現れない。
精神的にも体が追い詰められたとき、それに重なる様にしてまた悪魔のような耳鳴りが一定方向を向くと聞こえ始める。
キーンっとした痛みと、重い頭痛。
体の節々へと突き刺す様に広がっていく痛み。
圧迫感。
身動きが取れずベッドから動くことも出来なくなった私は、
その日体調不良を理由に仕事を休ませてもらった。
自宅の布団で一人眠っていた時、
ふいに誰かが入ってくる気配が聞こえた。
「ねぇ、早くあの子を殺してよ。
私の千翔の傍に居るなんて、目障りなのよ」
そうやって話すその声は馬上さんで……、
あまりの出来事に私は布団から必死に体を起こして逃げる様に
壁際へと背中を預けて必死に立ち上がる。
「マコ、ヒロ、その目障りな人を消して。
私から千翔を奪う人を殺して」
そう言うと一緒に来たらしい不良少年のような印象の男子が
ガムをくちゃくちゃとさせながら私の方へと近づいてきて、
一人がポケットから取り出した、サバイバルナイフを開いて刃先を私へと向ける。
恐怖しかなくて、ドアのある方へと走りかけると、もう一人の男が追いかけてきて髪の毛を強く引っ張って、
私は後ろへと倒れこむ。
そんな私の上に馬乗りになったナイフの男は刃先て頬にスーっと撫でつけた後、
パジャマのボタンを一つ一つ、ナイフで引きちぎっていく。
「いやっっ!!」
露わになる私の胸のいただきへと再びなぞる様に刃先を動かした。
「何してるの?
私は遊びなさいなんて言ってないわ。
殺しなさいって言ったの。
その目障りな存在を私の前から、千翔の前から消してちょうだい。
出来ないなら、私がやるわよ。
かして」
そう言って馬乗りの男が持つナイフを馬上さんが手にして振り上げた時、
背後から「叶夢」「叶夢ちゃん」「叶夢さん」っと私を呼ぶ声が聞こえる。
「貴江、なんてことをしたんだ。
千翔君に謝りなさい」
「千凱、後は俺たちに任せていいよ。
はいっ、君たち三人はパトカーだよ」
そんな会話を聞きながら、助けが来てくれたことに安心して私は気を失った。