【B】眠らない街で愛を囁いて
生まれたばかりの貴江は、幼い時からお兄ちゃん子だった。
俺より六歳年下の貴江は母が33歳の時に出産した。
出産直後に体調を崩して退院まで3ヶ月がかかった母の代わりに、
貴江のことは俺と養父が暫く面倒を見てきた。
っと言っても仕事が忙しかった養父よりも、
実際は俺の方がかかわっていた時間が長かったんだと思う。
貴江のおむつを交換して、貴江をお風呂に連れて行って、貴江をおんぶして寝かせた乳児期。
俺としても、俺の生活の中に貴江がいるのは家族で、妹なんだから当然だった。
貴江は一人で寝るのを嫌がって勉強中の俺の傍にやってきては、
俺のベッドに潜り込んで眠るなんて茶飯事だった。
ただ可愛いと思っていた妹が妹の抱える闇を見せたのが、
中学校に入った頃からだった。
貴江が中学一年生の時、当時高三の俺が親しかった同じクラスの女性をカッターナイフで切り付けた。
それが貴江の異常行動の始まりだった。
俺の傍に居る学級委員長の存在が不快だったらしい。
俺の傍にいる女性陣が、貴江の目に留まると切り付けられる被害にあっていく現実。
その恐怖に俺は女性陣と会話するのをあきらめた。
俺が高校卒業を間近に控えた日、眠っていた俺の布団の中に貴江は入り込んできた。
突然の侵入に驚いた俺は慌てて着替えて部屋を後にしたものの、
明け方、俺の布団で素っ裸で眠っている姿で養父に発見された。
そんなことになってるなんて何も知らなかった俺は、
暁兄に一晩泊めて貰って翌日、学校の後自宅へと帰った。
そこには鬼の形相をした養父が居て、
養父は俺が妹を強姦して寝たのは何故だと告げた。
全く身に覚えのないことに「何のこと?」っと問うと養父は俺を一方的に殴って、
「お前のような奴は家族じゃない。養子関係は解消だ。どこへなり好きなところへ出ていけ」っと怒鳴りつけられて、
俺の居場所は馬上家からなくなった。
養父の弁護士に呼び出されて俺がその事務所に向かうと、
養父との養子関係が解消されて、母の旧姓へと戻ったことを知った。
行く当てのない俺はすぐ上の暁兄を頼ることしか出来なくて、
暁兄・凱兄の協力を得て父と再会し、今のこの生活を手に入れた。
物心ついた頃からあった不思議な視る力も、その頃から少しずつ強くなっていった。