【B】眠らない街で愛を囁いて


かなり貴江自身を追い詰められて病んでいたのだと推測される異常行動。


真っ白なメモ帳らしきものを破った後に『コロシタイ名桐』っと角ばった字で書かれた、
その名前は黒鉛筆で塗りつぶされていた。

そしてニードルのような先の鋭いもので、ドンドンと突き刺されて穴が開いた紙を母が部屋で見つけて
慌てて俺に電話をかけてきた。



「千翔、名桐さんって誰?
 
 貴江が……貴江が人をコロシタイって……。
 もうお母さん、どうしたらいいの?

 どこで育て方を間違ったの?」



電話の向こうで泣き崩れる母の相手をしている余裕なんてない。
貴江がコロシタイと思っているのは、叶夢なのだから。



慌てて兄貴たちに連絡をとって、
部屋からコンビニの店舗へと踏み込んで叶夢の姿を探す。




「おぉ、君か。
 名桐を探しているなら、今日は体調不良で欠席だ。

 名桐は一人暮らしだったな。
 後で様子を見てきてやって貰えるか?」


店長はそう言って、俺に話しかけてきた。



「すいません。今は馬上貴江はいますか?」


この場所に居て欲しいと望みながら、
告げるものの、貴江は今日のシフトを祖母が亡くなったからと伝えて早退したみたいだった。


ただ他の人にはわからない貴江の嘘も一時期、家族だった俺には通用しない。
俺にとって養父の母という立場になる祖母は貴江が小学一年生の時に亡くなっているのだから。




その後は再び、兄貴と合流して彼女のアパートへと車を走らせた。
彼女のアパートへ到着するまでの時間、最悪なシナリオしか脳内に想像できない。



養父の方にも母から連絡が入ったのか俺のスマホに着信が入る。



異常行動を知ってから、貴江の行動を監視する意味も含めて
GPSで居場所を突き止める機能を使って、貴江が今居るらしい場所の住所を告げる。


養父が告げた場所は叶夢の住むアパートだった。


養父をそこへ来るように呼び出している間に、
凱兄は警察をその場所へと手配した。



そして踏み込んだ俺たちの前には無残にもパジャマの前ボタンを刻まれて、
胸をむき出しにされた叶夢の体に一人の男が馬乗りになり、
もう一人の男はパジャマのズボンへと手をかけ、
貴江がサバイバルナイフを突き刺そうとしている瞬間だった。





理性の吹き飛んだ俺は、ただ叶夢を抱きしめたくて男たちを突き飛ばし、
貴江の持つナイフを蹴り飛ばして、滑りこむように座り込んで叶夢を抱きしめた。


震え続ける叶夢が意識を消失したのはその直後だった。


叶夢は暁兄が診察をして病院へと救急車で搬送された。


貴江は貴江の仲間たちは警察に連行されて養父も俺に静かに頭を下げた後、
貴江たちが乗せられたパトカーの後をついていったみたいだった。



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