【B】眠らない街で愛を囁いて
20.姿を消した彼女 -千翔-
叶夢が俺の前から姿を消した。
それに気が付いたのは、叶夢が意識を回復した翌日だった。
叶夢が事件に巻き込まれて意識を失ってから、
俺は彼女の意識が回復するまで病室から動くことはなかった。
養父が何度も何度も俺に直接伝えたいことがあるのだと、
連絡をしてきたが、俺は叶夢の傍から動くことは出来なかった。
一週間と少しが過ぎた時、ゆっくりと叶夢の目が開いた。
意識が回復した彼女はまだ思考が旨く働かないのか、
暫くはボーっと天井を見つめながら過ごしてた。
彼女の意識が回復したことを知って養父は病院まで押しかけて来た。
彼女に娘がしたことを謝罪したい。
養父はそう言ったけれど、俺は叶夢を養父に合わせたくなった。
あの人は貴江が可愛い。
だから貴江の可愛さのあまり相手の話を聞き入れない。
一方的に想像で相手をせめて居場所を奪っていく。
それが俺が知る、あの人だから。
何度も逢いたいと望む養父を叶夢から離すように、
俺は『少し出掛けてくる』っと叶夢に告げて病室を後にした。
養父が連れて行った場所は暁兄が手配した精神科のある病院だった。
事件が発覚して警察に連行されたその日、
貴江は何が原因かはわからないけれど発狂して倒れた。
そして警察の許可を受けて搬送してきたらしい。
貴江は鉄格子の奥に広がる部屋でベッドに繋がれるように寝かされていた。