【B】眠らない街で愛を囁いて



「千翔君……私は、こんな貴江にどうしてやったらいいんだ。

 貴江が千翔君と出逢わなければ、
 娘はこんなに壊れてしまうこともなかったのだろうか?」




貴江の発狂して暴れる声が響く部屋の前、
ソファーに座り込みながら養父は話し始めた。



「貴江があぁなったのは、俺の責任者ではありませんよ。

 俺と出逢っていても、俺と出逢っていなくても、
 貴江は変わらないと思います」


「千翔君……君が貴江を支えてやってくれないか?」

 



そうやって、この人は昔から俺を縛り付ける。



貴江の望みを手段を選ばずに、
行き過ぎた愛情で叶え続けようとする。


その行動の向こうに、相手を思いやる心なんて持ち合わせていない。




だからこの人が、今の叶夢に『娘のために俺と別れて欲しい』そう言われることが一番怖かった。





「馬上さん、俺の人生は貴方のものでも貴江さんのものでもありません。

 俺があなたたちの家族だった時代は終わりました。
 これ以上は何も望まないでください。

 俺には心に決めた最愛の人がいますから。
 その人は貴江にされた今回の一件で、今もとても苦しんでいます。

 なのに、どうして最愛の人よりも、最愛の人を苦しめた張本人を支えないといけないんですか?

 今回の一件、兄と相談して弁護士を通してきっちりと話し合いの場を設けたいと考えています。
 それでは、失礼します」




養父に連れられた病院を後にして俺はタクシーを呼び寄せて病院へと戻った。


彼女は何かの検査に出かけているらしく、
今日はそのまま別室で眠るのだと伝えられ俺は久しぶりのB.C. square TOKYOに戻った。


二人の事件から暫くは、二階のコンビニにも事情聴取と称して何人もの警察官が
事件の背景を知るために出入りをしていたみたいだった。



時には何時間か店を閉めてお店が協力していることもあった。


隠し通せたと思っていた殺傷未遂事件は当事者の名前を伏せたまま、
連日テレビのワイドショーなどを賑わせていた。



時間は18時を回った頃。


このところ手つかずになっていた仕事を進めようと、
27階のオフィスへと直行して3時間ほど集中して仕事をすすめる。


21時頃、俺は二人の兄を捕まえるべくオフィスを後にした。


五階のフィットネスジムで水曜日は体を動かしている
20時頃からトレーニングを始めて出てくるのが21時頃。





ジムの入り口でもあるとガラスドアの前で、
壁に持たれながら二人の兄が出てくるのを待っていた。




「おぉ、千翔か?どうした?
 お前も少しは運動したらどうだ?」



そう言いながら暁兄は凱兄を呼び寄せる。



「千翔、叶夢さんはどうだ?」

「暁兄には連絡あったと思うけど意識は回復したよ。
 ただ今日、叶夢の病室に馬上さんが来たんだ。

 会わせたくなくて、俺だけが出て行って付き合ったんだけど案の定だった。

 んで兄貴たちの弁護士を紹介してほしくて」



そう言った俺に、二人の兄貴は『本当にいいのか?』っと確認するように告げる。


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