【B】眠らない街で愛を囁いて
もし……馬上さんのお兄さんが、
千翔さんなんだったら私はやっぱり離れるべきなのかもしれない。
千翔さんとの関係からも、もう逃げ出したじゃない?
あの都会【まち】から逃げ出して帰ってきた時点で、
千翔さんとの時間も終わってる。
終わらさなきゃいけない。
あまりにも世界が違いすぎるの。
夢を沢山見せて貰って、これ以上何を望もうとしてるの?
一人でいるのが怖いから一緒に傍に居て、
一緒に叫んで欲しいなんて……都合よすぎたんだ。
……そう……。
掴みかけた運命から、
私は自分の意志で逃げ出してきたんだから。
これ以上、傷つきたくなくて……何も言わずにこの村に戻ってきた。
……何やってるんだろう。
あのまま傍に居る事が出来たら……千翔さんに『助けて』って伝えることが出来たら、
こんなにも苦しむ必要なんてなかったのに。
離れようとすれば離れようとするほど忘れようとすれば忘れようとするほど、
千翔さんの存在が大きくなってくのを、どうしようもないほどに感じながら、
私は矛盾だらけの時間を、とらと一緒に誤魔化すように彷徨い続ける。
何時か救い出してくれるそんな時間を求めながら……、
ただ一つの光を手放せないでいた。