【B】眠らない街で愛を囁いて
エピローグ
「叶夢、そろそろ時間だよ」
千翔の紡ぐその声で、
私はベッドの中からゆっくりと体を起こす。
スマホを引き寄せて時計を見つめる。
6時50分。
マズい、ちゃんとご飯作ってって考えてたのに昨日、
千翔から手渡された資料と睨めっこして、気が付いたら眠っちゃってたんだ。
しかも自分の机で果てたはずなのに、
朝になったらこうやって布団の中で目覚める。
考えなくて言わなくても、運んでくれたのは千翔。
「とら、おいで。
お前の御主人様、ようやく目が覚めたぞ」
寝室のドアを開けると、私のベッドへと大きな胴体でジャンピングして
朝の挨拶をしてくれる、とら。
「ワン。ワン」
とらの柔らかい体を、わしゃわしゃと撫で始めるとすぐにコロリと横になって
お腹を撫でろとでも言うように大人しくなる。
「おはよー、とら。
いつも早いね。はいっ、終わり。
あっ、時間ないよー」
慌ててベッドから飛び起きると、
クローゼットで洋服に着替える。
女子力が上がったかって言われると、
即答なんてできない。
まだまだメイクには時間かかると、
織笑や千翔と一緒に買い物に行っても、
可愛いって思う洋服を見つけても私には似合わない気がして、
伸ばした手を引っ込めてしまう。
だけど気になって手を伸ばすけど掴めない。