キミのトナリ
2.変わり果てた告白
5年前、私は同じ会社の先輩と付き合っていた。
「もしかしたらガンかもしれないってさ」
一瞬時が止まった。
食べていたすきやき鍋が卓上ガスコンロの上でグツグツといっている音、それが耳にしっかりと聞こえてくる。
「え……?」
目の前で、猫舌の彼がハフハフと本当に熱そうに口に入れた牛肉と格闘している。
今、君が言ったの?
自分が幻聴でも聞いたのかと疑うくらいに彼はいつもと変わらなかった。
そう、「ねぇ明日の晩ご飯なんにしようか?」って昨夜訊いてきたみたいに。
「だから~、ガンかもしれないって」
私の鋭い視線に気づき、お笑い番組でも見ているかのようにケラケラと笑いながら言った。
なんで笑ってるのよ。
笑ってする話!?
「ガンかもしれないってどういうこと?」
彼に対して無神経さすら感じながらも、冷静さを努めて訊いた。
「うん。だから、そのまんまだよ。ウケるよな、俺がガンかもしれないって」
相変わらずゲラゲラと笑ってる。
「笑って言うことじゃないでしょ!」
思わず声を荒げてしまった。
「……うん、ごめんな。そうだよな、笑えないよな、普通」
だけど、それでもまだ彼は笑っていた。