誰にも言えない秘密の結婚



出勤初日、社長がみんなの前で私を紹介してくれた。



「今日から事務をしてくれることになった明ちゃん」



明ちゃん……。


いきなりの名前にちゃん付け。


社長にそう呼ばれたことに驚いて、思わず社長の顔を見た。


社長は“ん?何?”みたいな顔をして私を見てる。



「自己紹介して?」



社長の言葉に前を見る。


みんながこっちを見てる。


緊張感で少し手が震えてきた。



「……あ、えっと、よ、吉田、あ、明、です……宜しく、お願い致します」



私はそう言って深々と頭を下げた。


心臓が煩いくらいドキドキしてる。



「吉田って、◯◯中の吉田?」



1人の男性の声が事務所に響いた。


頭を上げて、男性の方を見る。



「◯◯中の吉田明だろ?」



えっ?


な、何で?


私のこと……。



「瀬名(セナ)、明ちゃんと知り合いか?」



社長が私と男性を交互に見る。



「中学の時の同級生なんっすよ〜。なぁ?」



男性はそう言って私を見てニヤリと笑った。


瀬名……。


…………あっ。


あのニヤリと笑った顔、瀬名という名前。


後藤瀬名(ゴトウ セナ)


中学の時に、私をイジメていた主犯格の1人だ。


なんで……なんでこの人が……。



「し、知らない、です……」



思わずそう言ってしまった。


あの時の嫌な思い出が蘇る。




< 9 / 302 >

この作品をシェア

pagetop