誰にも言えない秘密の結婚
出勤初日、社長がみんなの前で私を紹介してくれた。
「今日から事務をしてくれることになった明ちゃん」
明ちゃん……。
いきなりの名前にちゃん付け。
社長にそう呼ばれたことに驚いて、思わず社長の顔を見た。
社長は“ん?何?”みたいな顔をして私を見てる。
「自己紹介して?」
社長の言葉に前を見る。
みんながこっちを見てる。
緊張感で少し手が震えてきた。
「……あ、えっと、よ、吉田、あ、明、です……宜しく、お願い致します」
私はそう言って深々と頭を下げた。
心臓が煩いくらいドキドキしてる。
「吉田って、◯◯中の吉田?」
1人の男性の声が事務所に響いた。
頭を上げて、男性の方を見る。
「◯◯中の吉田明だろ?」
えっ?
な、何で?
私のこと……。
「瀬名(セナ)、明ちゃんと知り合いか?」
社長が私と男性を交互に見る。
「中学の時の同級生なんっすよ〜。なぁ?」
男性はそう言って私を見てニヤリと笑った。
瀬名……。
…………あっ。
あのニヤリと笑った顔、瀬名という名前。
後藤瀬名(ゴトウ セナ)
中学の時に、私をイジメていた主犯格の1人だ。
なんで……なんでこの人が……。
「し、知らない、です……」
思わずそう言ってしまった。
あの時の嫌な思い出が蘇る。