ミツバチのアンモラル
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市道から一本奥に入った先に広がる住宅街に、巷で評判のベーカリーがある。
自宅の一階を店舗にしていたそのベーカリーは私が生まれる前からあって、すくすくと育つ二十四年の間にゆっくりとその美味しさの口コミは広がり、今では隣の空き地だったところにまで、駐車場とささやかな店舗の増設が成された。




時刻は十九時。
職場にも新入社員が入り、私も一番下っ端ではなくなった。といっても、まだそれも二週間の出来事なので、あまり状況は変わらないのだけど。


金曜日とあって、周囲の空気は私を含め穏やかだったり浮き足だっていたり、とりあえず月曜の朝のものとは違っていていい。
そんな中、定時あがりからのお誘いを断って急いだ家路の甲斐あり、私の家の隣に建つベーカリーの店内にはまだ柔らかな明かりがあった。ギリギリセーフ。
ガッツポーズを胸元で小さくして、今日の電車の乗り継ぎの順調さに感謝をした。


そうして、私は家にはまっすぐ戻りもせず、我が家のお隣さんの自宅用門扉をくぐった。こちらからのほうが目的地には遠いのだけど、特別感があるという一点だけでそうしている。
今日みたいな順調な帰宅日の私の日課。




ベーカリーを営むお隣さんとは家族ぐるみの付き合いで、両家の母の気が合うこともあり、とても密な関係を築いている。
子どもも同学年が一組いて、昔から旅行も一緒に行っていたし、預かったり預けられたりもしょっちゅうだった。
同い年の幼馴染みと、七つ上の、そう呼んでしまってもいいのかは少し考える幼馴染みと、私はひとりっこの寂しさを感じないくらいに昔は一緒に過ごしていた。


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