ミツバチのアンモラル
「抱き合ってなど断じていない。勝手に抱きついて、撫でさせてるだけ……」
「それを抵抗されないなんて相当だと思うよ」
「昔からやってることだもん。妹面して、無垢を装い強請ってるだけ。抵抗はされてないけど……扱いには困らせて、いる」
「二十四の女が無垢とかキモい」
優花が少し膨らんだお腹を抱えてわざとらしく震える。
……そんなこと、百も承知だ。
「だって、そうでもしなきゃ、圭くんは私に近づいてくれないんだもん。……もっと、思い知ってほしい。私だって大人になったって」
「でも、やってることは妹を再認識させてない? 無垢で甘えたなんて、華乃は圭くんに対して昔からそうじゃない」
「……だって、どうしたらいいかわかんない」
「その大きく成長した胸を勢いよく押しつけてしまえっ。なんなら裸体で」
「そんなことしたら逃げられるっ!!」
「そうなの?」
「段階は踏んでいかなければ……」
どうしたら、私を妹のように扱わないでくれるのか。
どうしたら私をひとりの女性だと、その目に映してくれるのか。感じるのか。
願わくは私の気持ちを受け入れてほしい。
かたちの違う愛し方をしてほしい。
お願いだから、告白を。
気持ちを、伝えさせてほしい。
「――華乃がそれを怯えているから、とかじゃなくて?」
優花が問うてくる。意味がわからずに首を傾げると、それは噛み砕かれてもう一度問われた。
「二十四年経った。子どもじゃなくなった時なんてとっくに過ぎてるよね。なのに行動遅くない? もっと早くから足掻くべきだった。今のポジションが心地いいからそうしてた。恋人なんて華乃自身が怯えてるから」
「違っ!! そんなことは絶対ないっ――私の頭の中を見せやりたいよ。圭くんとのあられもない妄想あれこれを」
「キモっ」
そう。土台は変わらずだけれど、私だって、もう生々しい大人なのだ。心地いいだけでは、もう無理なのだ。
きっと――
「――きっと、どんなかたちでも、私は圭くんが好きだよ」