ミツバチのアンモラル
「だったらもう少し頑張んな。撫でてもらうだけを続けて、今でしょ?」
「……うん」
「あんなのがまだ独身てのも奇跡だからね? 近所でも評判だったでしょ。パン屋の息子はどっちもいい男だって。見合い写真レジに持ってきたおばちゃんとか見たからね」
「嘘っ!? 圭くんがお見合いっ!? ていうか智也まで評判!?」
「あんたの智也評価いつでも厳しいわね……。――見合い、はなかったみたいだけど、誰とも付き合ってないとか、まさか圭くんを魔法使いだと思ってたりはしないよね……? だったら夢見すぎで早々に挫けるよ」
「っ……それは、ない……」
「だったら、他の女に盗られる前に当たってこい。砕けたらここに避難してきていいから」
「それが難しいんだよ~っ」
気持ちならとうに決まっている。
どうなろうと、それが誠意ある答えなら受け入れる所存だ。
握った拳に力を込めて、いつも想いを伝えようと圭くんに会いにいっている。
けれども何故だろう。
圭くんはとても巧みに、私の告白のタイミングを阻止しているよね。
ときには甘いお菓子に誘ってみたり、私が飛びつくDVDを眼前にぶら下げてみたり。
それらに惑わされる私も馬鹿だとは思うけど、……本当は、かわされていることに気づいていて、わざと流されている私もいたりする。
圭くんは企みに成功すると、とても安堵の表情を浮かべるから、絆されるようにふらふらとそちらに流される。
優花が私に問うたようなことを、圭くんは望んでる?
今が、一番なのだと。最良だと。
……ああでも、甘いお菓子もDVDもなかったときの、私の告白を遮るように発した一言には傷ついたなあ。
“華乃は僕の何よりも大事な妹だよ”
傷ついた私は、そろそろ無理矢理にでも、伝えてもいいのだろうか。