ミツバチのアンモラル
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卒業式の前日、夕方頃だったと記憶する。私は駅前通りの本屋に出掛けていた。
毎月買っている雑誌の購入と、何か自己啓発のような、己を奮い立たせる気分にさせてくれる内容のものを立ち読みしようと思って。
高校卒業というラインを、なんとはなしに子どもと大人のそれだと意識していた。結婚だって可能になるわけだし。
明日をもって子どもでなくなる私は、長年溜め込んだ圭くんへの気持ちを本人に伝えようとしてはいたけど、改まっての呼び出しに尻込みしていて……背中を押してくれるきっかけが欲しかったのだ。
「早くレジ行ってこいよ」
「……」
隣で私を急かすのは、玄関を出たところで鉢合わせてしまった智也で。何故か仲良く本屋まで来てしまったんだけど。
……結局、雑誌だけ手に取り、自己啓発云々は智也の前では立ち読みも叶わなかった。
本屋を出ると、智也に六百円以内で何か奢ってやると珍しいことを言われたので、お気に入りのカフェのココアにしようと駅前にまで足を延ばすことにした。あそこのは甘さがちょうど良くて、上に乗るクリームもとても美味しいのだ。
その日はとても暖かい日和でいい天気。明日の卒業式もこうだといいねと、同じ高校に通う智也と話ながら歩いた。
目的地へもうすぐ着く駅前のスクランブル交差点。信号待ちをしていた私の視界に、改札を出たすぐのところに佇む圭くんを見つけたのだ。
今日はお休みだったんだ。
その頃は造園業を営む会社に勤めていた圭くんの休日は不定期で、私も把握は出来ていなかった。
「兄貴、多分女と待ち合わせ」
圭くんを見つめる私に、智也は冷たく言い放った。