ミツバチのアンモラル
「ぁ……っ、そうなん、だ……」
動揺を隠してから見上げた智也の顔は、私の気持ちなどお見通しだと馬鹿にしていて。
それもそうか。幼馴染みに、打ち明けることはしなくとも、想いを完璧に秘めていられる私でもなかっただろう。
「付き合ってはいないけどな」
「仲、いいね。兄弟でそんなことまで話すんだ」
「話さねえよ。兄貴は、彼女は作らない奴だから。……ただそれだけ」
けれど、群がる綺麗な女の人がたくさんいることは、私だって理解していた。それがどういう人で、圭くんとどんな関係なのかは敢えて深く追求しようとはしなかったけど。
明らかに待ちの相手がいる様子の圭くんは、腕時計を眺めてはしきりにあくびを噛み殺す。
相手こそまだ現れていなかったけれど、直接的なそういう現場を見てしまうことは実は初めてで、私は酷く動揺した。
そうして、嫉妬した。
歩行者用の信号が青に変わる。
そこにいる誰よりも早く歩き出し、私は圭くんの元へと走り寄っていった。
「圭くんっ」
「っ!? 華乃っ」
「明日っ、卒業式終わったら話があるから時間作って。お願い」
顔が熱かった。きっとそのときの私は真っ赤に肌を染め上げていて、もう告白したも同然の状況だったのだろう。
けれど、驚いていた圭くんは数秒後にはいつもの柔らかな微笑みで、頷いてくれた。
「――わかった。華乃だけの時間、作るから」
恥ずかしくて逃げ出したくなった私は踵を返して、存在を一瞬忘れていた智也のの姿を探す。智也は何故か交差点の向こう側にまだいたものだから、私も再度青信号を待った。
圭くん側の背中が熱くて倒れそうで仕方がない。圭くんは、今私を見ているのだろうか。それとも、誰かを探しているのかもしれない。
そういうのに、振り回される感情はもう嫌だ。
私は明日、圭くんに告白をする。