ミツバチのアンモラル
 
 
圭くんの異性関係を目の当たりにしたからというのもある。
さっきまで持てなかった勇気が出てきたのが女の影なんて、馬鹿みたいだ。でも、追い詰められて良かったとも。


圭くんを自分のものにしたいけど、それは叶わないかもしれない。ひとりひとりの想いが全て成就しないことなんて、悲しいけれど解ってもいる。
でも、伝えることはしたいと思った。
たとえ振られたとしても、圭くんに出来るかもしれない彼女、いずれはやってくるであろう奥さんとかそんな存在を、妹としてだけの立場よりも、ちゃんと圭くんを好きだった私として、対面したいのだ。
あとは……浅ましくも、圭くんはそんなときの私の笑顔を盗み見る。そうしてそんな私を一生頭の隅に置きながら、幸せになってしまえばいい、と。


もう、いい時期だ。ずいぶん前に先に大人になってしまった圭くんに、そういう意味で手を伸ばす。
子どもは子どもなりに、生きてきた十八年間で色々考えた。


どうか、どうか、明日だけは、妹からの情だとは扱わないで。






そのとき、圭くんに取り付けた約束に高揚して、きっと私は周囲に目がいってなかったのだと思う。
早く家に帰りたくて帰りたくて、明日のシュミレーションや伝える言葉の順番、身だしなみのこと。とにかく気が急いてしまって、焦っていた。
視界に入った智也に、一刻も早い帰宅を詫びてココアをキャンセルしなければいけないとも思ったのを記憶している。


私の記憶は、実はここで途切れている。


青に変わった歩行者用信号によりスクランブル交差点を歩いて渡りきるはずの予定が、信号無視をしてそこに突っ込んできた乗用車に跳ねられて、どうやら多少飛ばされもしていたらしい。




次に目が覚めたのは、それから一日経ってから。


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