ミツバチのアンモラル
 
 
大学の送迎やその他の移動全てを毎日すると言い出し、なんなら許可を得て学内でまでサポートしようと画策する。休日でもどんなときも、私が家から出ようものならめざとくそれを察知してついてこようとする。それは松葉杖から解放されても変わることはなかった。
我が家もお隣さんも、この一連の行動には戸惑っていたのだけれど、私が眠っている間の圭くんの憔悴っぷりも見ていたものだから、何も言えなかったらしい。



私が眠ってからじゃないと圭くんは一日を終えられない。朝は朝で、私が目を覚ますか不安でたまらない。……いいじゃないかこのままなし崩し的に恋人にしてもらえと優花に言われたけど、圭くんのあれは荷物持ちとか従者の類いだ。
隣を歩いてくれていても、圭くんは私の進路を阻むものに警戒しているだけで。


きっと、圭くんもどこまで私の世話を焼いたらいいのか境界があやふやになり、背負う必要のない責任と絡み合い、深みに嵌まっていったんだと、思う。


「……圭くん。もう、いいから」


それは、次第にエスカレートしていった圭くんの私へ保護が、単に話しかけてきた大学の知り合い――男の子――から私の姿を隠すように前に立たれたときに、圭くんに言った言葉だった。


圭くんとずっと一緒にいられるのは、そりゃあ嬉しいよ。
けれども、こんなのはごめん被る。
罪悪感や責任でなんて……そんなの、圭くんたちの目の前で事故にあってしまった私が抱いても、そっちが持つものじゃない。
大事で、失いたくない身近な人。守りたいとしてくれる気持ちはわかる。私たちは近すぎる幼馴染みだから。逆の立場だったら、私だっておかしくなってしまう。


圭くんは、また、ずっとそうだったように、私の望む立場は私にくれない。


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