ミツバチのアンモラル
3
「智也っ、助けてっ!!」
時刻は夜の九時。その日、私はとあるカフェダイニングのトイレの個室から智也に電話をかけていた。
その日、職場の同期に夕食を誘われた。
近くに新しく出来たカフェダイニングの夜メニュー、カクテルがビジュアルも味も素晴らしいのだという。従業員も見目麗しい男の人ばかりだとか。あとひとり揃うとお得な割引きもあるとかで是非とも付き合ってほしいと職場の廊下で九十度に頭を下げられてしまっては、周囲の視線が気になってすぐに頷いてしまった。
「……えぇ……」
予約はしてありそれまでに充分時間に余裕があったというのに、定時で仕事を終わらせたわりには、同期始め一緒に行く他の先輩や後輩全員が、更衣室でメイク直しを物凄く丹念にしていた。鼻とおでこの油をとってリップクリームを塗ろうとしたら、何故か私までグロスを塗りたくられる始末で。
どんだけイケメン店員がいるのだ落ち着かないカフェだと思って行ってみれば、予約したソファー席は連れ立った人数にしては随分広くて、到着十分後には知らない男性客と混じって座ってしまっていた。
「……合コン」
てへっと可愛く笑いながら同期が片目を瞑る。私には出来ないウインクだ。
「女子の人数減っちゃって。――で、今日の出勤服が合コン向きだった子をスカウトしちゃった」
「……ていうか、イケメン店員だけでなく合コンもって、矢を放ちすぎて的には当たんないよ?」
かくして、合コンは無慈悲にも始まってしまった。
皆居酒屋並みにお酒のペースが早いのは確かに料理含め美味しかったからだ。
合コン相手は、どうやら取引先の方々みたいだ。こちら同様、年齢層も取り揃えてきていて、営業だからか話しやすくてカッコいい人が多かったけれど……イケメン店員なんぞ、確かにそうかもしれないけれど……。圭くんを見慣れている私の目はは厳しいぞと、何故か生意気にも諸々の光景を俯瞰していた。