ミツバチのアンモラル
「俯瞰でいておいてなんで襲われかけてんだよ、アホかっ」
「……適当に相槌打ってたらしく」
「お前がか?」
「そうらしい。ご飯美味しくてそんなの
身に覚えないけど……」
「アホかっ」
「で、どうやらちょっと気に入られてたらしくて。その人お酒弱いのに呑むし、酔うとちょっと強引になっちゃうみたいで……お店出る前にトイレ行ったら……」
「どっか連れていかれそうになったって? ……少し歩けばホテルあったな。あのへん」
「……うん」
色々と汚え不潔だ不実だやること全部不細工だとぶつくさ腹を立てる、私のヘルプ電話に駆けつけてくれた智也と歩く週末の街。
酔っぱらいから逃れて女子トイレの個室に避難した私は、同期に直ぐ様電話して、まだ私を捕獲しようと女子トイレの前にいた酔っぱらいを回収してもらい、このまま帰る旨を伝えた。そのあと、恐怖でそこから出られず、智也が迎えにきてくれるまで個室に籠ってたんだけど。
私の髪は乱れていて、今日は朝時間があったから試したヘアアレンジが見事に崩れている。歩きながら、髪をほどいて左の耳下でひとくくりにした。
正直、迎えを断られるかと思っていた智也は来てくれて。その手の爪の間には小麦粉の名残があった。
「助かった。ありがとう。急いでくれたみたいで、ごめん」
「……別に。独りは怖かっただろうし、……兄貴に頼まなかったのは、まあ、平和的解決だな」
迎えだけなら構わない。けれど、朝とは違うヘアスタイルや、切羽詰まった電話等、今では落ち着いているような圭くんにでも危険だなと焦りながらも判断して、智也にお願いをした。
圭くん以外に乱された私など、見られたくなかったというのも、ある。
「圭くんには……」
「華乃からの連絡とは言ってない。俺だってまだ生きていたい」
兄貴は馬鹿だからな――智也はそう、苦い顔をして独りごちた。