ミツバチのアンモラル
 
 
「智也。圭くんのことちゃんと捕まえておいてね。明日乗り込むから」


握りこぶしを突き合わせようとしたら拒まれた。変わりに、智也らしい応援をいただく。


「おう。変態は変態同士早く収まって俺をもう煩わせんな」


「失礼なっ。私は変態などでは」


「嘘つけ。てか、兄貴のは否定しないのな……お前のそういうとこは笑えていいと思うけど。――、華乃」


「何よ」


肩の荷や罪悪感が晴れてくれてのか、智也は清々しい顔つきで。
そうして、腹いせにもとれるようなその爆弾を最後に投下していった。これが本日最大の痛手といっても過言ではないかも、しれない。


「俺が華乃を諦めた瞬間は」


「っ」


「中三の冬、華乃が兄貴の使用済みストローを盗んだときだ。その場でそれを舐めなかったのが救いだったな」


「っ!! あれはっ!! えっ、なんで知って!?」


「お前の手癖なんてトロくて見え見えなんだよっ!! ……あぁ、俺の純心な初恋はあのとき砕け散った」


「ああっ、あれは受験のお守りにっ」


「そして合格祝いにボールペンをくすねたと」


「全く同じ種類の新品をカモフラしてきたからいいじゃないっ!!」


「良くねえよっ」


華麗な突っ込みだった……。


色々申し訳ないと下がってしまった眉のまま智也を窺ってみれば、浮上した気持ちのまま保たれていて。


「じゃあ俺は帰る。ちゃんと寝ろよ」


「うん。――また明日ね」


「おう」


けれども智也の顔つきも心持ちも、翌日にはまた急降下さしてしまうのだけれども。






圭くんが、逃げ出したのだ。




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