ミツバチのアンモラル
――……
という感じで始まった朝から、気づけばもう閉店となっていた。今日は早い時間に売り切れとなり、これから土曜の夜を充分に満喫出来る。
看板娘よろしく、一日きっかり働いてしまった。……別に、パンを作っていないからそこまで重労働ではないし、おじさんとおばさんに喜んでもらえたのならいいのだけれど……。
「……」
「華乃。どうしたよ」
どうしたもこうしたもない。智也の馬鹿。
時刻は十九時。
私は智也と今、電車に揺られている。
「……別に」
お店が終わると同時に、智也からすぐに外出を申し渡された。聞けば圭くんの居場所はお昼には判明していたらしく、今からそちらに向かうとのこと。
慌てて問い詰めれば、圭くんは前職場の寮で、そちらから依頼されたお仕事の打ち合わせ等の名目でひきこもっているらしい。何故そんなのわかったのかというと、昨夜圭くんに会いに来ていた女の人――朱美さんはそちらの人らしく、智也の推測どおりそこにいたらしい。
そして、危険なことに朱美さんは会社の社長の娘で、社長は圭くんを気に入っていて、そして寮は社長宅の広い敷地内に併設されていて現在居住者はゼロらしく圭くんは非常に危険な場所にいる!!
焦った私は、電車の中でそうしても意味などないというのに、走り出してしまった。
「おい華乃っ」
重大なことをギリギリまで言わない智也が悪いのだ。
背負っているリュックを掴まれて足を止められれば、がちゃがちゃと固いものが擦れる音が鳴る。
「リュックん中、何が入ってんだ?」
問うてきた智也へと指折り数えて答えてやった。
「ハンマーとレンチと針金とガムテープと網と大きめの石」
ドラマで観た気がするドア等の破壊方法で覚えているものを用意してきた。少なかったのは、智也が急かしたからだ。
リュックの中身を聞いた智也は、どうか職務質問されませんようにと手を合わせていた。