ミツバチのアンモラル
トータル一時間ほどで目的地に到着。駅からの道を迷うことなく来れたのは、智也が以前忘れ物を届けに来ていたからだった。
会社も自宅も同じ住所にあるらしく、入り口こそ別れているけれどとにかく広い敷地面積。会社側の駐車場には、見慣れた圭くんの黒い車。そこに収まる様を歯がゆく見ていたら、いつの間にかインターホンが押されていたようで、自動で開く門扉がゆっくりとお出迎えをしてくれていた。
「華乃、こっち」
なんだかむかつく。
そりゃあ、智也の助けがなければこんなに円滑にここまで辿り着かなかったけれど、もっとこう……なんというか、圭くんを迎えに行くならひとりで颯爽と行きたかった。
恐らく天岩戸になるであろう扉も一瞬で開けてしまえるかっこいい私だったなら、圭くんはなんの躊躇もなく気持ちを教えてくれたのかな。私も、言えていたのかもしれない。
けれどもどうやったって私はもうこんななのだ。
せめて、こんなふうにもう、圭くんが憂うことのないよう、早く終わらせなくてはいけない。
広い敷地をしばらく歩けば小道が別れていて、右へ行けば大きいからおそらくは社長宅。左には、アパートらしい建物だからあれが寮なのだろう。
分岐点には敵がひとりいた。高いヒールのパンプスを難なく履きこなして佇む、朱美さん。
対する私は、圭くんが誉めてくれたワンピースこそ可愛いものの、背負うリュックの中身は可愛くなく、靴は歩きやすさ重視のローヒールだ。
「こんばんは。夜分に申し訳ありませんでした」
昨日は怯えてしまったけれど今日は負けない。頭を下げ、私は朱美さんに封筒を手渡した。中にはお給料二ヶ月分が入っている。
中身を確認した朱美さんは豊かな睫毛をはためかせてながら、見下ろしてきて。
「これは?」
「――ドアを潰してでも連れて帰るつもりですので。その際ばたばたしてご挨拶も出来ないといけないので、念の為先払いを」